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図体が大きくて邪魔にしかならない善をリビングに追い払った。冷蔵庫を開け、念のためひき肉の賞味期限を確認してから、何を作るか考える。
卵と、ひき肉と、玉ねぎ。そして付け合わせの野菜くらいしかない。つまるところ、ハンバーグの材料だ。
残念ながら食材は今日、まとめ買いするつもりだった。俺が定時上がりの水曜日と、土日のどちらか2回、買い物に行くのがなんとなくの決まりになっている。
せめて、善に連絡しときゃよかった……。
最初は2時間で終わる予定だった残業が伸び、善に連絡し損ねたまま4時間が過ぎていたのだ。
今朝、届いてるはずの部品がなくて生産管理部に行ったところ、発注が遅くて間に合わなかったと抜かしやがった。相手の都合で届かないのは仕方ない。発注が遅れてって、どういうこっちゃい!
あまりの怒りに頭の血管が切れそうになりつつも、生産管理部の部長に“いつか引きずり降ろしてやるからな”と心の中で告げ、笑いかけてやった。なぜか俺のことを気に入っているらしい部長から、ねちっこい笑みが返ってくる。
生産管理部はたびたび同じ事を起こしている。指導が甘く、新人ならともかく、そこそこ年数の経ったやつまでミスが多いのだ。
責めても仕事は進まないので、他の機械に使う予定だった部品を流用し、蒸し暑さでくたばりそうになりつつも機械を組み上げて帰ってきた。
明日朝イチで、変更を指示してきた企業が視察にくるらしい。昨日変更したくせに、2日あけただけで視察にくるって、バッカじゃねぇの。それをヨシとした営業担当者にも腹が立つ。しわ寄せがくるのは現場なのに、無茶振りが多いのだ。
「……はぁ。大丈夫なのかな、うちの会社。名前が有名なだけで、内情は悲惨だもんな。転職するならギリギリの年齢か。んー……でも、確実に給料は下がる。これ以上善と収入格差が広がるのは悔しいし、やめとこ……」
ため息はとまらないし、気付けば独り言を呟く回数が増えている。血圧が上がってるのが自覚できるほど心臓がドクドク鳴っていた。
クソみてぇな上司にごまを擦らなきゃ上には行けないし、係長止まりなら仕事が増えるだけで給料の上がり幅は微々たるもの。
本来、昇進は喜ばしいことなのに、年齢のわりに独身者の多い先輩たちが、「給料はそこそこでいいから、身を削ってまで働きたくない」と、役職を引き受けたがらないのは仕方のないことだった。
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