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結局ハンバーグはやめ、オムライスを作ることにした。鶏肉のかわりに豚ひき肉を使おう。多少油っぽくなってしまうのは仕方がない。仕方ない、けど。
ちんまりと座る男の子に視線を落とした。そんな油っこいものを食べさせていいんだろうか。わからん。ぜんっぜん、わからん。いいの? だめなの? どっちなの?
男の子に向かってのほほんと微笑んでいる善に言う。
「……俺らさ、里親認定落ちたの当たり前じゃない? 登録前に研修受けたけど、制度のことばっかで子供のご飯の作り方なんて知らねぇんだけど。なんかもう……住んでるとこがどうとか、残業で1人にする時間が長いとかじゃなくて、根本的な問題じゃない?」
「……あ」
男の子から視線を外した善は俺のほうを向いて、てへっと舌を出した。イケメンだからって、なんでも許されると思うなよ。
「あ、じゃねぇよ。なんでキミ、お勉強できるのに気付かないの?」
「まこがしっかり者だから、任せとけば大丈夫かな〜って」
「先に責任なすりつけといて言うのもなんだけど、らちがあかねぇから抜こう。とりあえずひき肉は抜いとこ。卵あるからタンパク質は取れるし、食わせて腹壊すよりいいだろ」
てんやわんやでオムライスを作り、できた頃には疲労困憊で皿を運ぶ気力すらなかった。
ひーひー言いながら、リビングのソファーテーブルの前に座る。2人なら少しせまいくらいだったテーブルの上は食器でギッチギチにうまっていた。
俺と善が「いただきます」をすると、男の子も「いたらきます」と手を合わせた。目がきらりと光っている。
「ぱんぱんまんだ!」
善がケチャップで書いたパンのヒーローを気に入ってくれたらしい。大人用のスプーンを握りにくそうに持ちながら、それでもモグモグとおいしそうに食べている姿を見てほっとした。
今どき珍しい、しつけのしっかりした子だなぁ。……でも、年齢のわりに言葉がつたないような。首をかしげると、善の口が“あとでね”と声を出さずに動いた。
オムライスを食べおわり、食器を洗ってくれるという善をキッチンに残して、男の子と風呂に向かう。
俺は服を脱いだ男の子の体をくまなく確認した。アザも傷もどこにもない。虐待はされていないようだ。
つい悪いほうに考えてしまうのは、もう癖なんだろう。自分自身が児童相談所やフリースクールにお世話になっていたから、周りは何かしらワケありの人ばかりだった。だから、“普通”の基準がずれてしまっているのだ。
タオルで作ったブクブクに喜ぶ男の子は、きっと大切に育てられている。そうじゃなきゃ、こんな無邪気に笑えない。
いいことなのに、少しだけ胸がチクンと痛んだ。大切にしていたにもかかわらず、どうしてこの子の親は、子供をクリニックの前に置き去りにしたんだろう。
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