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「さすがに、目つぶって」   駄々をこねるかと思ったのに、善は大人しく目を閉じてくれた。  俺も同じように目を閉じ、言われたとおり、善に向かって舌を差し出す。もごもごした声で「これでいいだろ」と言うと、 「見えないから、まこからチュウして」  と、返ってきた。考えてみれば自分から舌を絡めることなんて、今まで意識してなかっただけで何度となくやっていることだろう。けれど一旦意識してしまうと、途端に恥ずかしくなってくる。 「絶対、目開けんなよ」  絶対だからな、と念を押して、薄く開いた善の口の中に舌を差し込んだ。背筋をなぞられ、やたらと甘い吐息が口から洩れてくる。 「まこ、か〜わいい。どんな顔してるか、見せてくれないの? 目合わせながらするチュウ、好きなくせに」 「絶対、やだ」  と言いながら、俺はそっと目を開いた。見られるのは嫌だけど、善がどんな表情をしているのか知りたくなったのだ。  わー、薄目を開けて見てらっしゃる。超ガン見。 「おい、目ぇ開けんなって言ったろ」 「開けてないよ? 半開き〜」  善は悪びれた様子もなく言った。とんちが働くというか、屁理屈をこねるのが上手いというか……。 「いつから一休さんに弟子入りしたんだよ」 「ほらほら、まこ、時間だよ〜。ご飯食べて歯磨きするなら、そろそろタイムリミットじゃない?」 「……あ」  ろくにキスをしないまま時間がきてしまった。どうせなら、もっとちゃんとしたかったのに。 「チュウしてる最中の顔もいいけど、今の表情もくるな」  強く抱きしめられ、脳が揺さぶられるようなキスをされる。  結局パンは食べ損ない、歯磨きをしただけで会社に向かうはめになった。

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