10 / 12
10
「さすがに、目つぶって」
駄々をこねるかと思ったのに、善は大人しく目を閉じてくれた。
俺も同じように目を閉じ、言われたとおり、善に向かって舌を差し出す。もごもごした声で「これでいいだろ」と言うと、
「見えないから、まこからチュウして」
と、返ってきた。考えてみれば自分から舌を絡めることなんて、今まで意識してなかっただけで何度となくやっていることだろう。けれど一旦意識してしまうと、途端に恥ずかしくなってくる。
「絶対、目開けんなよ」
絶対だからな、と念を押して、薄く開いた善の口の中に舌を差し込んだ。背筋をなぞられ、やたらと甘い吐息が口から洩れてくる。
「まこ、か〜わいい。どんな顔してるか、見せてくれないの? 目合わせながらするチュウ、好きなくせに」
「絶対、やだ」
と言いながら、俺はそっと目を開いた。見られるのは嫌だけど、善がどんな表情をしているのか知りたくなったのだ。
わー、薄目を開けて見てらっしゃる。超ガン見。
「おい、目ぇ開けんなって言ったろ」
「開けてないよ? 半開き〜」
善は悪びれた様子もなく言った。とんちが働くというか、屁理屈をこねるのが上手いというか……。
「いつから一休さんに弟子入りしたんだよ」
「ほらほら、まこ、時間だよ〜。ご飯食べて歯磨きするなら、そろそろタイムリミットじゃない?」
「……あ」
ろくにキスをしないまま時間がきてしまった。どうせなら、もっとちゃんとしたかったのに。
「チュウしてる最中の顔もいいけど、今の表情もくるな」
強く抱きしめられ、脳が揺さぶられるようなキスをされる。
結局パンは食べ損ない、歯磨きをしただけで会社に向かうはめになった。
ともだちにシェアしよう!