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第3話-3

「もういい加減泣きやみなよ」 「だって、だって、」  風呂場から二人で出てきて、善也はさっさと階段を上っている。智もぼろぼろと涙をこぼしながら後に続いていた。  部屋に戻ると、善也はベッドに腰を下ろす。智が床に座ると善也は小さく笑った。 「恥ずかしかったの?」  ぐしぐしと鼻をすすりあげかすかにうなずくと、善也は智の頭を撫でる。 「掃除するの大変だったもんね」  智はもう、顔が上げられなかった。そのままうずくまって、まだ止まらない涙を流す。ずっとそうしていると、また善也の低い声が頭に降ってきた。 「ちょっといい加減にしてくれない?」  びくりと智は体を震わせる。怒らせてしまったと、顔を上げられないまま善也の足にしがみついて、まだ泣いていた。 「そんなに恥ずかしいなら、自分でできるようになってね」  言われて、何度もうなずいた。その態度に、ふっと息を漏らすと善也は再び智の頭を撫でる。いつになく優しい声で囁いた。 「今日は無理だね。また今度続きを教えてあげる」  智は思い切り顔を上げて善也に縋り付いた。頭を何度も振って嫌だと主張する。そんな姿を見て、善也は満足そうに表情を歪めた。 「やっぱり。いやらしいなあ智くんは」  耳元で囁かれてぞくりと腹の底から期待と羞恥が湧き上がった。 「自分でしたこともないんだよね」とつぶやきながら、じゃあ脱いで。とまた恥ずかしいことを言う。智は目が回りそうになって善也に抱きついた。 「何? 優しくしてほしいの?」  智は何も言わずぐりぐりと善也の腹に頭を押し付ける。もう何をどう口にすればいいのかわからない。  その行動を見て、善也はさらに口の端を釣り上げた。ぞっとするほどかわいらしい。真っ白なものを自分の手で汚してしまえるこの快感に背筋が粟立つ。  そんな風に思われていることなど気づきもせず、智は期待と羞恥に体を熱くして身もだえていた。  ベッドに体を乗せられ、善也が覆いかぶさってくる。口づけをすると舌をからませて服を順に脱がせていった。もうすでに期待で起き上がっている智自身に触れられて、羞恥で身を固くする。ぎゅっと目を閉じると、「力を抜いて」と耳元で囁かれた。撫でただけですぐに離されて、思わず不満げな息が漏れる。しかし、そろそろと後ろに指をすべらされて、智はさらに体をこわばらせた。 「力抜かないと痛いよ」  言われても、どうしていいのかわからない。善也が再び口づけて舌をからませてくると、それだけで智の体はへにゃりと緩んだ。善也がローションをたっぷり手に取ると、それをすりつけ指にもたくさん絡めていく。智は青ざめたり赤くなったりしながら体を揺らした。何をされるかわからない恐怖と、淡い期待。体に力が入ると口腔を犯される。自身の体の緩急に頭がおかしくなりそうだ。頭に血が上りすぎて、ふわふわと体が宙に浮いたように感じた。  その時、ぐぐっと指を入れられ、想像を絶する違和感にぞぞぞと体を粟立たせると、智は思い切り善也を蹴ってしまった。彼の力ではびくともしない善也は、その足を捕まえて大きく開かせる。さらに奥に進められて、智は大声で叫んだ。 「やめてやめてやめて。抜いて! 抜けよ!」  すっと指を抜かれて、智はホッとすると同時に、熱くなってしまった体に戸惑いを感じる。そして善也を蹴ってしまったことを思い出して、青ざめた。 「ご、ごめんなさい……」  もうすでに泣きそうになりながら、善也の腕に手を添える。善也はぱっと智から体を離すと、ティッシュで手を拭きながら息を漏らした。 「ここも自分で慣らしておいてね」  自分で。  考えるだけで恥ずかしくて恐ろしい。智は縋り付くような目で善也を見て、手を伸ばした。しかし、少し不機嫌そうにそれを無視される。智は起き上がって善也にしがみついた。 「ごめん、ごめんなさい。もう蹴ったりしないから、だから」 「智くん」  善也の声にびくりと肩を震わせる。しかし、思いのほか優しい声音だった。 「これはゆっくり時間をかけてやらないといけないことだよ。毎日僕にして欲しいの?」  智はその言葉に、体が蜜で満たされるような甘い感情が湧き上がる。  善也に毎日こうやって。 「嬉しい……」  思わずもれた智の言葉に、善也はびりびりと背中を電流が走ったような感覚がした。今この手で殺してしまいたいほどに愛おしい。本当にどうしてここまで天然の色気があるのか。無理やり犯してしまいたい感情を押し殺して、善也は智の頭を撫でた。  智は何も知らず、目を細めて喉を鳴らす。 「毎日は無理だよ」  ふっと息を漏らして笑われて、智は急に恥ずかしくなって俯いた。 「自分でもやれば、それだけ早く気持ちいいことに近づけるってことだよ」  その言葉に、智は善也の胸に頭を押し付けるとわずかにうなずいた。  今まで我慢していた分、もうどうしようもないほどに、性的な快感を与えてくれる善也に溺れてしまっていた。

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