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第5話-3
智は無理やり息を吐き出し体を緩ませるという、どうすればいいのかわからないことを強要されていた。圧倒的な質量で己の中に奥深く入っていく善也のものは、散々慣らしたおかげで痛みは少ないものの、強烈な違和感を智に与えた。背筋をぞぞぞと駆け上がる得体の知れない感覚。しかしそれだけではない。ずずと押し進められる度にピタリと閉じている中がこじ開けられていく。その壁を擦られると何とも言えない快感が体を突き抜けた。「んんん」と何かに耐えるような声が漏れる。善也がひと際大きなため息を吐き出すと、ぐっと腰を押し当ててきた。
「全部入ったよ」
いつもと違う色めいた声で、善也は少し歪めていた顔を笑みの形にした。智は脳が痺れるような感覚に支配され、うるんだ目で善也を見上げる。充足感が辺りに満ちた。入ったまま顔を寄せられ唇を合わせる。舌が蕩けて落ちてしまいそうだ。
そして。これからどうするのかということを考えるとざわざわと皮膚が粟だった。しかし不安もある。あまり強く抜き差しされると痛みの方が勝ってしまうのではないだろうか。そんな智の表情を見て、善也は柔らかく笑うと頭を撫でた。
「大丈夫だよ。無茶なことはしないから」
善也は優しかった。いつもの支配的な態度は消え、智の体をいたわっているのが感じられる。少し腰を揺らすたびに二人の口からため息がこぼれる。だんだんと智はもどかしくなって、自ら腰を動かした。
「やっぱり智くんはいやらしいね」
いつものように少し歪んだ笑みが現れる。「あぁ」と声をもらしたのはどちらなのか。もう我慢できなくなって善也の腰を引き寄せた。
「これで本当に智くんは僕の物だね」
その言葉は、自らを貫かれる快感に夢中になっている智には届かなかった。あられもなく身をよじり、声を漏らし、善也にしがみつく。これほどの快楽がこの世にあるのかと、智は気を遠くしながら戦慄した。大きく息を吐き出し、智が精を放つと善也は満足そうに自らを抜き去ろうとする。「え」と小さく声をあげ、余韻に震えながら智は善也の腰を押さえた。
「善也イッてないだろ?」
「僕はいいよ」
何がいいのだ。前から思っていたが、善也はなぜそんなにも自分の快楽を切り捨てるような真似をするのか。自らをそそり立たせながら、一度もそれに触れることもなく、智に何かを強要することもなかった。性に貪欲な智からすれば、善也はどこか達観した、人ではないものにすら見える。智は善也の言葉に構わず、まだ敏感なままの体を無理やり動かした。
「ちょっと」
急に動かれて善也は戸惑った顔をしていた。そして眉間にしわを寄せ唇を噛みしめる。何かに耐えているような表情を見て、智は何だかわかったような気がした。
恥ずかしいのだ。
一線を引き、上から見下ろしていないと、自らの欲望を見られてしまう。そのことにきっとひどい羞恥を感じてしまうのだ。
智は得意になった。善也の弱点を発見した。初めて繋がったにもかかわらず、がんがんと腰を振る。善也が身もだえる様を見てみたい。しかしそれは己にも返ってくる。結局身をよじって快感をむさぼり、善也の表情を見る余裕などなくなってしまった。それでもぶるりと体を震わせて善也が達したのを感じると満足した。その拍子に緩んだ体が敏感な部分に触れ、うめき声をあげてもう一度精を吐き出してしまう。恥ずかしいのは自分だった。
呼吸を荒くしながら、二人してベッドに伏せた。善也はすぐに自分を取り戻し情事の跡を消していく。少しずるい気がした。乱れているのは自分だけだ。しかしそんなことを言うと殴られそうだ。
ぐったりとしている智をいたわるように腰に触れ、善也は言い知れぬ満足感に浸っていた。これが己の物になった。やっと手に入れた。快楽に従順な智はこれでもう離れていくことはないだろう。ずっと支配できる。しかしもう一度、繋がっているところを写真に撮ったほうがいいかもしれない。念のために。
善也の歪んだ感情に気づくこともなく、智は再び甘いため息をついて、まさか自分が体験できるとは思っていなかった性交と言うものを知ったことに喜びを感じていた。
もう一度味わいたい。
智の性欲は底知れない。
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