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第6話-2
たどり着いたのは端に机が山積みにされた何に使うのかわからない教室だった。よくもまあこんな場所を知っているなと、状況を忘れて呆れる。しかし思い切り突き飛ばされて中に倒れこむと再び恐怖が湧いた。千隼は善也の胸元を引っ張ってドアを閉める。小さな音をたてて鍵がかけられた。
「ほら、早く脱げよ」
顔色をなくして智は震えていた。善也がそれを見下ろして、ぽつりとつぶやいた。
「ローションの代わりになるようなものがないと無理だよ」
「はあ? そんなこと言って逃げるつもりだろ」
千隼は大声で善也の耳元にがなり立てる。しかし善也は表情も変えずじっと黙っていた。千隼は舌打ちすると「わかったよ」と低い声で言った。
「逃げたらこいつ犯すからな」
ああ、と思った。ああ、今から、善也は逃げ出してきっと俺は千隼に犯されるのだ。こいつは下品で乱暴だから俺の体はめちゃくちゃにされる。あまつさえ動画もとられるのだ。もう死んだ方がましだ。もう死んだ方がましだ。もう、死んだ方が、ましだ。
智が小さくすすり泣くと思い切り背中を蹴られた。
「めそめそすんなよ、うぜーな」
善也はすでに教室から出て行っている。戻ってくるのを待っている間、千隼は無駄に智の顔を写真に撮っていた。
かたりと、小さくドアが開く。どこから見つけてきたのか、もともと持っていたのか、想像するだけで恐ろしいが善也が手にローションを持って戻ってきた。戻ってきたというそれだけで、智の涙腺が決壊した。善也は俺を見捨てなかった。ちゃんと戻ってきてくれた。善也なら優しく丁寧に抱いてくれるだろう。問題はそこではないのに、智の思考はもうおかしくなっていた。
千隼がスマホを構えている前で、善也が智の服を脱がせていく。シャツをはだけさせてズボンを脱がすと、いつものように智の後ろにぬるぬるとこすりつけて行った。少し指が入って智の体がピクリと跳ねる。放心状態の智はもう体が反応するに任せていた。まだ一度しか受け入れていないのでなかなか広がらない。千隼は焦れたように「さっさとしろよ」とがなり立てていた。
考えることを放棄した智は、善也の指の動きに身をよじり、大きな声で反応し、せかすように善也の腰を引っ張る。ずずと善也のものが中に分け入ってくると身も世もない嬌声をあげた。快楽を貪ることに必死になる。善也は淡々と腰を動かしていたが、智は艶のある声で善也を誘い、腕を伸ばして首にしがみついた。
千隼はいまだ無表情な善也を撮ることをあきらめ、痴態をさらしている智にスマホを寄せていく。智は甘い声で喘ぎ、自ら腰を振り、もう何もかも、羞恥心まで手放して、あられもない姿をさらしていた。
ごくりと千隼の喉が上下する。思っていたよりも色っぽい。彼らの性行為を見て、勃起している自分に気がついた。
「うっは、俺男でもいけるかも」
言いながら智にさらに近づき、自分のものを取り出すと智の口に押し付ける。善也が眉間に深くしわをきざんで千隼を睨みつけた。
智はもう正常な思考を手放している。押し付けられたものが口をわずかに押し広げると、含んだ経験もないのに舌でぬるりと舐めだした。善也の動きが止まり智の胸倉を引っ張ろうとする。しかし千隼はそれを押さえ、「人並みに嫉妬してんじゃねえよ」と体を押し戻した。智は押し付けられるままに口の奥まで含んでいく。がりと歯があたり千隼に髪を引っ張られた。
「いてーだろうが。ふざけんなホモ」
ピクリと智の指が動く。しかし逆らうこともなく、よだれを垂らして奥に押し入れられる千隼のものを必死で舐めていた。喉の奥まで突かれ、がはっとむせる。善也が動かないのが不満なのか、智は足で善也の腰を引き寄せた。
その時。
がん! と大きな音を立ててドアが揺さぶられた。何度かがたがたと音を鳴らしていたが、鍵が壊れ扉が倒れるように開く。千隼がさっと振り向くと、怒りに眉を吊り上げた成雄が立っていた。その姿を見て善也が舌打ちする。ずかずかと教室に入ってくると、千隼を思い切り蹴飛ばした。智が音に反応し薄く目を開いてそちらを見る。成雄が千隼を押さえつけながらスマホを奪っていた。
成雄は千隼の耳元で「やりすぎだ」とつぶやく。スマホを操作して動画と写真を消すと、それを投げ捨てた。千隼が情けない声を出して拾いに行く。
成雄が智の元へ行き、大丈夫かと大きく声を上げている。「てめえ」と言いながら、未だ智の中から出ようとしない善也の胸倉を掴んだ。成雄の声で意識を取り戻した智は慌てて起き上がり成雄の腕を思い切り掴む。
「善也は悪くない!」
ぐいと腕を引っ張られ成雄は体勢を崩した。智は目に涙をためて善也にしがみつく。
「善也は何もしてない!」
守るように善也を抱きしめ、成雄を振り仰ぎきつく睨みつけた。
成雄が悲しそうに眉を下げる。何かを言おうとして、言葉にならず口を閉じた。千隼が音を立てて教室から逃げ出していくと、残された三人は沈黙の中で睨み合っていた。
「智、服着て」
まだ善也にしがみついている智の肩を引っ張る。成雄は優しく頬を撫でて口から垂れていた唾液を拭った。放り出されていたズボンを手渡すと、智はようやく善也から離れ、我に返ったように青ざめて泣きそうになりながら、成雄の肩にしがみついた。
「頼む、誰にも言わないでくれ」
成雄の表情がさらに悲しみを大きくした。そっと肌に手を触れて確認する。
「どこも痛くない?」
智は俯くようにうなずいて、「出て行ってくれ」と小さな声で言った。まだ何かを言おうとしていた成雄から顔をそらす。成雄はぎゅっと唇を噛みしめて拳を震わせた。しかし、智の頑なな態度にあきらめたのか、握った拳を緩めてうなだれながら教室から出て行った。
善也は相変わらず無表情だった。小さな声でつぶやく。
「何で千隼くんのものを舐めたの?」
今それを言われると、智は泣くしかなかった。気に入らないのはわかるが後にしてくれ。嗚咽を漏らしながら涙を拭うと善也が寄ってきた。抱きしめられて頭を撫でられる。
「怖かったね」
優しく言われて、智は善也の胸に顔をうずめ大きな声を出して泣いた。善也はずっと頭を撫でていてくれる。やっぱり善也は優しい。俺を見捨てなかった。成雄が動画も写真も消してくれた。泣き声が小さくなっていくと善也は立ち上がり、智の手を引いた。ぐしぐしと鼻をこすりながら、智は善也の後を震える足でついて行った。
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