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第4話
拾人お兄ちゃんは罪悪感と初めてΩヒートそれも他人のを目の当たりにした不安で、トイレに向かうのも僕と一緒に行動した。
僕は本当に口惜しかったけれど、拾人お兄ちゃんが正気を取り戻してくれてホッとしている。
本当は家に帰って怒鳴り付けたい気分だけれどあのΩが居たら嫌だし、拾人お兄ちゃんがまだ不安定なのもあって僕のモヤモヤは胸の中で渦巻いている。
もう、朝陽君の彼女さんとは頭の中だって誰かとの会話とだって呼べそうにない。
僕が拾人お兄ちゃんのメスであると同時に、拾人お兄ちゃんは僕のオスなんだもの。
αが抗えないのなら、僕が戦うしかないじゃない。
もう何時間も経ってしまったけれど、きっとまだあのΩのフェロモンは結構な密度で残っているはず。
僕は明日からの生活を考え、日が昇ったら僕だけで家から勉強道具と着替えをこちらに移そうと決意する。
拾人お兄ちゃんをしばらく僕の家に近付けない為だ。
両親も分かってくれるはず。
あのΩの動向も気になる。
あれから抑制剤を飲んだのか、それとも朝陽君と番に発展したのかだ。
朝陽君と番になっていれば拾人お兄ちゃんの安全は保障されるけど、抑制剤を飲んで朝陽君と別れたか家から帰っていたら、拾人お兄ちゃんを狙って襲来しそうだからだ。
僕は今日も眠れそうにないから拾人お兄ちゃんが眠りに着いたのを確認して、拾人お兄ちゃんのお母さんに相談をした。
拾人お兄ちゃんのお母さんに相談をすると、呆気なく答えは見つかった。
僕が子供で知らなかっただけで、αヒート抑制剤という代物は存在していて、結構ポピュラーなアイテムらしい。
これは、αがΩヒートによって望まぬ性交渉を行わないようにする物だそうで、今の僕にとっては拾人お兄ちゃんの次に大切な物ではないだろうか。
拾人お兄ちゃんのお母さんは、直ぐにストックの抑制剤を渡してくれた。
僕はお礼を言い、拾人お兄ちゃんのベッドに入って足を絡めて眠りに就く。
今度はよく眠れそうだ。
翌朝、僕は朝食の後に拾人お兄ちゃんに断って自宅に荷物を取りに戻った。
玄関にあのΩの靴が無いのを確認して、両親に朝の挨拶をするが微妙な空気が流れている。
僕は部屋の荷物をまとめてから、お父さんに昨日のその後を聞いてみる。
それによると僕達が家から飛び出た後に何でもない顔で、バッグから抑制剤を取り出して飲んだかと思うと、用は済んだとばかりにさっさと帰って行ったそうだ。
やっぱり僕の気のせいじゃなかったって事だね。
きっと、拾人お兄ちゃんの周辺を付きまとうという予測まで建ってしまった。
お父さんにしばらく拾人お兄ちゃんの家で生活する許可を貰って、拾人お兄ちゃんの家に戻る。
拾人お兄ちゃんにあのΩの経過を知らせて、αヒート抑制剤を僕のヒートまで常飲してもらうよう約束した。
ここまでしても安心出来ないのは、Ωの性なのだろうか。
抑制剤でΩヒートに発情しないとは言っても、身体に直接刺激を与えられれば、オチンチンは勃ってしまうだろうし、赤ちゃんのタネが出ないわけではない。
拾人お兄ちゃんは頭が良くてしっかりしているから、間違いは起きないと分かっていても僕は不安だ。
僕の不安は募りに募って、拾人お兄ちゃんのクローゼットから拾人お兄ちゃんの愛用のパンツやシャツを引っ張り出す。
それらを全て拾人お兄ちゃんのフェロモンで溢れるベッドの中に隠して、それでも足りなくて拾人お兄ちゃんが着ているシャツとスウェットパンツを脱がせてベッドに持って行き、最後に拾人お兄ちゃんもベッドの中に連れて入って、僕はお兄ちゃんのフェロモンに包まれて漸く安心していた。
安心して冷静になってから気付いたけど、これはΩの巣作りという現象で番に対する不安とヒートを報せる行為だと性教育で習った。
ヒートの線はまだもう少し無いだろうけれど、不安だったのは間違いない。
僕と拾人お兄ちゃんはまだ本当の意味で番ではないけど、僕の心はとっくの昔に拾人お兄ちゃんの番なんだ。
拾人お兄ちゃんは巣作りした僕をしっかりと見つめて抱き締めて「今日からは油断しないから、安心していいよ。僕が愛して可愛がりたい子は、今腕の中に居るからね」と言ってくれた。
僕の肩から力が抜けて小さく嗚咽を漏らすと、拾人お兄ちゃんは僕の頰を伝う涙を舌先で掬いとって慰めてくれ「俺の為に心を強く持って、戦ってくれてありがとう。」と、更に強く抱き締めた。
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