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第6話
朝陽君が高校を卒業して家からちょっと遠い国立大学に通うため、両親と僕と拾人お兄ちゃんは朝陽君のお引っ越しの荷まとめを手伝った。
朝陽君は暫く落ち込んではいたものの、新しい出会いをキャンパスライフで見つけるんだと意気込んで前向きに旅立って行った。
拾人お兄ちゃんも近所の高校に教師として通い始めている。
勿論αヒート抑制剤は常飲してるし、生徒との距離感は大きく保つように心掛けてくれるそうだ。
ただ拾人お兄ちゃんは本来なら高校を卒業したばかりであるはずの年齢で、生徒達と年齢が近過ぎて性の対象として見られ易いだろう。
年齢だけじゃなく見た目も性格も能力も。
あれ?全部じゃん。
ヒート抑制剤飲んでても心配が尽きないよー。
愛する人に関わる人間が増えるって、凄く不安なんだね。
僕は両親や兄、拾人お兄ちゃんに今まで本当に凄く守られて来たんだと実感する。
お兄ちゃんをこれ以上守るにはどうしたら良いのだろう。
これまでと違って、拾人お兄ちゃんは仕事だから帰宅時間も遅くなるし、ギリギリ未成年だからお酒を飲む事は無いだろうけれど、お父さんみたいにお酒の席には誘われる筈だ。
僕は凄く頭を悩ませている。
拾人お兄ちゃんが僕の担任の先生になる為に、早いうちに教師としての経験を積もうとしてくれているのだから、辞めて欲しいなんて絶対に言えない。
辞めてと言ったとして、僕のヒートが来るまでニートなんて以ての外だ。
僕は春休みが明けて学校が始まるまで悶々と悩んでいた。
小学校の始業式に向かうと体育館の隅を指差して、キャーキャーと女の子達が騒いでいる。
僕はハンサムで強いαな拾人お兄ちゃんが心配過ぎて、暗黒世界の中を行ったり来たりしているというのに。
僕は親しい友達も特には居ないから、静かに始業式に参加している。
新任の先生の紹介に物凄く聞き覚えのある名前がある。
僕の愛する許婚のものだ。
一年間の臨時教師だそうで、僕のクラスの担任だ。
女の子達がさっき騒いでたのは、拾人お兄ちゃんに対してだったのだと気付いた。
拾人お兄ちゃんは、壇上で「まず、私には許婚が居まして、今回その子のクラスの担任として赴任させていただきました事を感謝しています。教師として過ごす時間は皆平等に接することを心掛けますので、どうかよろしくお願いします。」と挨拶をした。
僕はびっくりして目がパチクリしてしまった。
なんで?なんで?拾人お兄ちゃん、高校の先生になるんじゃなかったの?
僕は首が180°くらい曲がりそうになってしまった。
僕は頭の中が余計にグルグルしてしまって、拾人お兄ちゃんに話を聞くまで首をひねっていた。
簡潔に言うと拾人お兄ちゃんの就職が予定より早くなってしまったのと、僕のヒートがもしかしたら平均よりかなり早いかもしれないので予防線的な観点から、優秀な頭を使って僕の小学校の臨時教師の枠に食い込ませてもらったのだとか。
拾人お兄ちゃんが優秀な頭をどのように使ったのかは謎だ。
僕の為に細心の注意を払ってくれたのだと思うと胸がポカポカ暖かい。
普通だったら重いのかもしれないけど、僕達はαとΩで年齢的にも直ぐに番える訳でもない。
だからこそ互いを守る必要があるのだと、年末の事件が僕達に改めて教訓を与えた。
拾人お兄ちゃんが僕だけの王子様である事は、僕の首輪が証明してくれるから校内では心配していない。
この学校、僕以外のΩは五年生に一人だけだし、教師は拾人お兄ちゃん以外はαが数人と残りはβだ。
小学校に在籍している間は、教師のαと生徒のαを僕が警戒しておけば大丈夫なのだ。
小学校なんて、担任の先生以外の授業なんて自習の時間くらいだし、臨時教師に出張は無い。
僕は安心して通う事が出来るとニコニコして毎日、黒板に向かう愛する人を見つめている。
それでも女の子達から拾人お兄ちゃんへ、ラブレターが届きまくる事は腹立たしい事だ。
僕のなのにぃっ!!
小学校の送迎は拾人お兄ちゃんが今も必ずしてくれるし、毎日必ず会えているけどイチャイチャのお風呂タイムが以前より遅い時間になってしまった。
風のように僕とお風呂に入って風のように自宅に帰って行く姿を、見送るのは寂しい。
キスして抱っこしてくれるけど、それ以外は週末だけ。
愛されてない訳じゃないんだけど、お風呂でたっぷり可愛がってもらうのが小さい頃からの習慣だったせいか、それが無いと寂しい。
休み時間毎に女の子達に睨まれるから、パワーの消耗が激しいんだよね。
僕の方が可愛いんだからと図太く居るけど、いい気はしないよ。
拾人お兄ちゃんが教師としての仕事を全うしようとしてる姿はとてもカッコいいし、許婚の僕も鼻が高いのは確かなんだ。
ただ拾人お兄ちゃんを独り占め出来なくて、僕がワガママなだけだもの。
だからほんの少しだけでいいから、僕の方を見て欲しい。
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