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第3話

なんだか会話が噛み合っていないような気がするが、ナオは気にしないことにした。 今は自分の事情よりも、共同論文を進めることの方が重要だ。 「俺、ちょっと参考文献探しに図書館行ってきます」 「あぁ、んじゃ、俺も行くわ」 「え……?」 「行き詰ってたのはお前だけじゃねーってことだ。ホラ、行くぞ」 幸太郎はソファから立ち上がると、出入口に突っ立っていたナオの前まで歩み寄ってきた。 ドキドキする。 幸太郎の身長は190センチで、今は引退してしまったが、バスケ部でエースを務めていたと聞く。 一方でナオは170センチ、幸太郎とは20センチの差がある。 よってナオが少し目線を上げないと、幸太郎と目を合わせて喋ることなどできはしない。 「あ、はい……」 いつの間にかドアに背を預けていたナオは、幸太郎と一緒に図書館に行くことについて、ようやく返事をしたのだった。 図書館内はとても静かだったが、坂上幸太郎という高身長のイケメンが入り込んだ瞬間から、館内がざわめき始めた。 女子学生達が嬉しそうな顔をしながら、幸太郎を見つめているのだ。 「俺は女にモテるが、お前は男にモテんのな?」 参考文献を探すために入り組んだ書庫に入り込むと、幸太郎がそんなことを言ってきた。 「へ……?」 いきなり何を言い出すのかとナオが素っ頓狂な声をあげれば、幸太郎はククッと笑う。 「お前、童顔過ぎ。とても21歳には見えねーよ。男共が熱い視線送ってたぜ」 「そういう坂上先輩は……大人……じゃなくて、フケ顔ですよね」 「俺のことはいいとして、お前は気を付けろ。普段から危機感なさそうだしな」 ただし、「フケ顔」と言われたことは面白くなかったらしく、ナオの頭をクシャっと撫でる。 「フケ顔で悪かったな。んで、お前はどういう文献探すつもりなんだ?」 訊かれると、ナオはチノパンのポケットに入れていたメモを取り出し、幸太郎に渡した。 それを見た幸太郎は、「なんだ、ほとんど俺のと被ってんじゃん」と呟く。 「手分けして探しますか?」 「いや、端から一緒に見ていった方が効率がいい」 「はあ……まあ、俺としては便利ですけど」 「何が便利なんだ?」 それはもちろん幸太郎の高身長だ。 上の方にあって脚立を使わないと取れないような本も、幸太郎が一緒にいればヒョイと取ってもらえる。 「久住……俺はオメーの便利屋じゃねーぞ」 「高身長の有効活用ですよ。見て行きましょう」 尚も何か言いたそうな幸太郎を横目に、ナオは背を向けて歩いて行った。

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