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第6話

ナオの家は、幸太郎の家とは逆方向にあった。 使う私鉄は同じなのだが、幸太郎が上り列車を使うことに反し、ナオの家は下り列車を使う。 当然6時過ぎともなれば仕事帰りのサラリーマンの姿が多く、帰宅ラッシュが始まっていた。 「3駅先で降りるんで、ちょっと我慢してくだ……おわっ!?」 電車がガタンと揺れる度に、人混みに押されてナオがグラつく。 幸太郎はそんなナオを無言で支えつつ、手すりの上の鉄パイプを掴んでいた。 まったく、どうしてこんなに人が多いのか。 まあ論文で精根尽き果てた自分達の事情など、他人の知ったことではないのだろうが。 電車が3駅先で止まったところで、今度は人混みをかき分けて降りなくてはならない。 ナオが四苦八苦しているのを見かねた幸太郎は、彼の肩を抱きながらやっとの思いで駅のホームに降り立った。 「何にもねー駅だな……」 あるのは出口に通じる階段と、誰が見ているのだろうと疑問に思うような看板ばかり。 駅なのにベンチの一つも置かれていない。 「ああ、ここって鈍行しか止まらない駅でして……家賃が安いんですよ」 とはいえ通学には苦労している、というのがナオの言い分だった。 いかに身長が170センチあろうとも、身体の造りが華奢なので力負けしてしまうのだそうだ。 「あの、先輩?」 「なんだよ?」 「あそこ、見えますか?寄って行きませんか?」 ナオが指差しているのは、大学で喚いていたオニクロの店舗だった。 「行かねーよ。お前、俺よりヘロヘロしてんのに、なんで寄り道なんてしたがるんだよ?」 「やっぱり行かないんですか……でも、コンビニには寄ってくださいよ」 「だから、なんで?」 「下着……ウチに予備の下着ないんです……歯ブラシはあるけど……」 どうしてこうも着替えに拘るのか今一つ分からない幸太郎は、半ば本気で小首を傾げる。 「だから、お前ん家の浴室乾燥貸せって。パンツなんてどうでもいいだろーが」 「どうでもよくありません!」 「……じゃあ、腰にタオル巻いとくから、それで勘弁してくれ」 幸太郎もナオほどではないが疲れている。 これ以上衣服のことで議論するつもりはなく、力なくそう言うと、ようやくナオは大人しくなった。 駅から歩くこと3分──。 ナオの家は、いかにも「学生相手に家を貸しています」というような建物群の中にあった。 アパートではなく、外観が蔦に覆われた、明らかに築年数が古そうなマンションだ。 「幽霊とか……出ねーよな?」 「何言ってるんですか、そんなもの出ませんよ」

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