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第7話
幸太郎はホラーの類が苦手である。
そしてナオの住むマンションは、ホラー映画の中に出てきそうな建物なので、大いに不安を煽られる。
「このマンションの1階……一番手前が俺の家です」
ナオがポストで郵便物を取りながら、部屋を指差す。
幸太郎はナオの後を付いて行き、彼が玄関を開けるまでをぼんやりと見つめながら、「今日はマジで疲れたわ」と小さな溜息を吐いた。
まず、「私と論文、どっちが大事なの!?」と彼女にキレられた。
その彼女を宥めるために、なるべく人目のつかない場所に連れ込んで、キスをした。
しかしその場しのぎのキスは、かえって彼女の怒りに火を点ける結果にしかならず、幸太郎は「もうアナタとは付き合えない!」と去っていく年上の彼女を止めなかった。
止められなかったのではなく、敢えて止めなかったのだ。
なぜなら別に好きで付き合っていた訳ではなかったからだ。
ただ「好きだから付き合って」と告白されて付き合い、キスをしたりセックスをしたり、それだけで満足だった。
だが最近の彼女は「結婚」の二文字をチラつかせ始め、そんなものを微塵も考えていない幸太郎にプレッシャーをかけてきた。
元々それほど好きでもない女なら、別に別れても構わない、そんな心境だったのだ。
「坂上先輩?」
「っ!?」
ぼんやりしていた幸太郎は、ナオに名を呼ばれてハッとした。
「どうぞ」
「サンキュ」
室内に入り込むと、ナオが言うほど散らかってはいなかった。
小さなキッチンがあり、その奥にベッドが見えている。
外観からは想像できないほどに近代的で、目を見張ってしまう。
なるほど、このくらい洒落ていれば、浴室乾燥という設備があってもおかしくないなと思った。
「ギャップ、すごいでしょ?」
ナオに問われると、幸太郎はハッとして彼を見た。
同時に胸がキュン──、とする。
なんて無邪気に笑うんだろう。
ナオとはこんな表情を見せる男だっただろうか。
「とりあえず、ピザ選びましょうか」
ナオは部屋に幸太郎を招き入れると、小さなテーブルの上に宅配ピザのメニューを数枚置いた。
まずはどこのピザ屋にするのかを決めねばならないが、幸太郎は正直どこでもいいと思っていた。
特に好き嫌いはないし、腹が膨れて疲労が軽減されればそれでいい。
どのピザにもチーズが乗っているのだから、満腹感も疲労軽減もできることだろう。
「え、坂上先輩って好き嫌いないんです?」
「おうよ。食えりゃなんでもいいぜ」
「じゃあ、俺が選んでいいですか?ちょっと苦手な食べ物多いんで」
「何が嫌いなんだよ?」
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