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第11話
それから数日後、とうとう幸太郎とナオの共同論文が仕上がった。
とはいえ一難去ってまた一難、幸太郎はこれから卒業論文に取りかからねばならない。
「久住……頼む、俺の卒論も手伝ってくれ……」
「先輩が俺の卒論手伝ってくれるんなら、考えてもいいですよ」
大学の最寄り駅で偶然鉢合わせをした2人は、そんなやり取りをしながら学校へ向かって歩いていく。
「俺、来年は社会人なんだけど。手伝えるワケねーじゃん」
「じゃあ、卒論は一人でやってください。そもそも、先輩って俺のこと信じてないですよね?」
幸太郎がナオの家に泊まった時、ナオは眠っている自分にキスをしてきたり、自分をオカズにして抜いていた幸太郎と、どんな風に話せばいいのかと少し気掛かりだった。
だが幸太郎は予想通り、そういう話題に触れることはなく、いつも通りナオと接してくれている。
そのことが心からありがたいと、ナオは思っていた。
「げ……」
突然幸太郎が歩みを止めた。
ナオも何事かと足を止め、幸太郎を見上げる。
「どうしたんですか、先輩?」
「いや……ちょっと会いたくないヤツが校門のとこにいて……」
ナオが校門へと視線を移すと、論文が佳境だった頃に幸太郎と街でキスをしていたあの美女が立っていた。
少し胸が痛むものの、ナオは笑って幸太郎を励ます。
「先輩の彼女ですか?綺麗な人ですねぇ。学校まで会いに来るなんて、相当愛されちゃってます?」
「……お前、とりあえず黙っとけ」
「へ?あ、ちょ、ちょっと……!?」
幸太郎はナオの腕を掴むと、大股で歩き出し、校門の前に佇む美女の前に立ちはだかった。
本当に綺麗な女性だ。
セミロングの髪を初夏の風になびかせて、特徴的な大きな目を幸太郎に向けてくる。
「なんだよ?」
だが幸太郎は不機嫌そのものの声で、挨拶もなしで彼女に話しかけた。
「どうして連絡くれないの?」
彼女の方も怒っているようで、表情の割には口調がきつい。
「別れるっつったの、そっちだろ?なんで俺が連絡しなきゃなんねーんだ?」
え──?
もしかして、このシチュエーションはいわゆる修羅場というやつなのだろうか。
ナオは一秒でも早くこの場を立ち去りたいとばかりに捉まれた腕を動かそうとするが、ビクともしない。
「そっちの子、誰?」
「久住ナオ、この大学の3年だ」
「そう。それで、その子の腕を掴んでいるのはどうして?」
「俺ら、付き合ってるからな。お前と俺が話し込んでるのを見て、付き合ってるとか誤解されたくねーんだよ」
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