俺ら、付き合ってるからな──。 どうせなら、もっとマシな嘘を吐いて欲しかったと、ナオは内心打ちひしがれた。 今向き合っている彼女と別れたのであれば、幸太郎は次の彼女を見付けるだろう。 なのに、よりにもよって幸太郎に想いを寄せるナオと付き合っているだなんて、たとえその場しのぎの嘘であっても、やめて欲しかった。 「へぇ、アナタ、ゲイだったの？」 「別れた男の性癖なんてどうでもいいだろ？」 「よくないわよ、大体私、別れることに同意していないわ」 「お前が別れるって言ったんだろ。もう纏わり付くなよ」 どうしよう──、と焦るナオだが、ここは彼女の言い分を優先しなくてはと思った。 「坂上先輩、そんな綺麗な彼女相手に嘘吐いたらだめです」 「っ！？バカ、黙ってろっての」 「すいません、俺、先輩とは付き合ってないです。同じ学部で同じゼミなので一緒にいることが多いだけで、それだけです」 彼女はナオを一瞥すると、再び幸太郎を上目遣いに見上げた。 「この子の言うことの方が本当っぽいんだけど？」 「お前に都合がいいからだろ？」 「そうよ。都合のいい方を信じて何が悪いの？」 「悪くないです！」 突然ナオが会話に割って入ったので、幸太郎と彼女の視線を一身に集めてしまった。 「わ、悪くないです……誰だっていい話の方を信じたいって思うでしょうし……それに、さっき言った通り、俺は坂上先輩の後輩で、それ以上でもそれ以下でもありません」 ああ、なんて羨ましいのだろう。 彼女は幸太郎に「好き」だと言える権利を持っている。 それはナオが喉から手が出るほどに欲していながら、どう足掻いても手にできないものでもある。 でも、こんな綺麗な彼女の次にナオを想ってくれなんて、果たして言えるのだろうか。 「私、名倉日菜子っていうの」 彼女は幸太郎ではなく、ナオを見つめてそう名乗った。 「アナタは確かに可愛いけど、私の彼氏を取らないで！」 語気荒く言われると、ナオはおずおずと一歩退く。 そのくらい、日菜子の口調はどこか切羽詰っていて、だからこそ本当に幸太郎が好きなんだなと分かってしまう。 ナオも日菜子と同じで幸太郎が好きだからこそ、「取られるかもしれない」と考えるだけで激昂してしまう彼女の心境が痛いくらいに理解できた。 「さっきも言いましたけど……俺は坂上先輩の後輩でしかなくて……」 「久住、ちょっと黙っとけ。日菜子、俺はコイツと寝た」 「っ！？」 ナオは咄嗟に息を飲み、日菜子はどういうことかという目で幸太郎を睨み付ける。 「本当……なの……？」 強気な彼女から、か細い声が発せられた。