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第13話

「ねえ、本当なの……?」 「マジな話だ」 日菜子は今度はナオに助けを求めようとするが、生憎この件に関してナオは何も言ってやれそうにない。 ヤる、ヤらないの問題ではなく、幸太郎と一夜を過ごしたのは偽りなき事実だからだ。 それでも、もしあの夜ただ同じベッドで眠っただけというのなら、正直にそう言ってやれる。 だがあの夜幸太郎は眠っているフリをしていたナオにキスをし、オナニーまでしているのだ、何もなかったなどと言えるはずがない。 「本当……なんだ……」 日菜子の形の良い目から、透明な雫が溢れ出す。 ナオは幸太郎を見上げるが、その瞬間ゾクッとした。 彼は確かに日菜子に視線を向けているが、その視線がとても冷たいのだ。 「分かったら、もう近付いてくんな。行くぞ、久住」 無理矢理腕を引っ張られると、ナオは引きずられてしまう。 彼女を泣かせたまま放置していいのだろうか、本当に幸太郎は彼女と別れるつもりなのだろうか。 「先輩、彼女のこと、ホントに置き去りにしていいんですか!?」 とうとうナオが声を荒げた。 「いいんだよ。アイツは泣こうと思えばいつでも泣ける」 「どういう意味ですか!?」 「女優がいつでもどこでも泣けんのと同じで、アイツも涙を自由に操れる」 「でも、本物の涙かもしれないじゃないですか!?」 「俺にとっちゃ、どっちでもいい。アイツとは終わってんだから、必要以上に構ってやる必要もねーよ」 そういうものなのだろうか。 たとえ別れてしまったとしても、泣いていたら慰めるべきではないのだろうか。 そこでナオはハッとした。 一番目の彼女に対して、幸太郎は冷徹とも思えるような態度を取った。 じゃあ、二番目を望む自分にも、同じようなことをするのだろうか。 刺すような視線で睨み付け、泣いていても「ほっとけ」と言ってどこかへ行ってしまう。 そんな仕打ちに、ナオは耐えられるのだろうか。 「せ、先輩!」 「あ?」 「あの……もう腕、放してください」 2人は既に学校内に入り込んでおり、幸太郎に引きずられるように歩くナオは学生達からの視線を集めている。 「あ、悪ぃ」 パッと腕が放されてようやく自由になったところで、ナオは走り出した。 「オイ、久住!」 振り返ってはいけない、全力で走れ、振り向くな。 元バスケ部の幸太郎が追ってきたら、またナオは腕を掴まれてしまうだろう。 だが幸太郎が追って来ることはなく、ナオは無事校門前まで戻り、まだ茫然とそこに立っている日菜子を見付けた。

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