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第15話
そんな幸太郎をナオは追いかけたいと思うが、今は生憎ゼミ中でそうできそうになかった。
幸太郎は校舎から出ると、正門へ続く道沿いに等間隔に置かれたベンチに、どっかりと腰を下ろした。
俺は坂上先輩の後輩で、それ以上でもそれ以下でもありません──。
さっきナオが日菜子に対して放った言葉が、耳の奥にこびりついて離れてくれない。
幸太郎とナオが出会ってから3年目に突入する。
初対面の時は「随分童顔だな」と思ったし、幸太郎の恋愛範囲にナオが入ることはなかった。
それが一変したのは、共同論文を書き始めた頃だろうか。
論文のために翌日の待ち合わせ場所と時間を決めても、一向に姿を現さないことが何度もあった。
最初はナメられているのかと思ったのだが、ナオはめっぽう朝に弱い体質な上に放浪癖も持っているという。
そんなことが言い訳になるかと怒鳴り付けたこともあったが、ナオの行動が改善されることはなかった。
そして数日前──。
幸太郎は少々強引な言い分でもってナオの家に行き、一夜を明かした。
疲労を溜め込んでグッスリ眠っているナオの唇を奪い、その上キスをしながら自慰までしてしまった。
「俺を惑わせんなよ、久住……」
幸太郎は肘を両脚の上に乗せ、前傾した。
そうして目を閉じ、ナオとのキスを堪能しながらオナニーをしてしまったあの時の自分を思い出す。
身体が疼く。
意識のあるナオを抱いてみたいと、本気で思う。
だが、相手は応じてくれるだろうか。
「無理矢理っつーのは……趣味じゃねーんだよな……」
いくら幸太郎であっても、相手の意思は確認しておきたい。
合意の上でなければ、神聖はなずのセックスもただの犯罪と成り果ててしまう。
「胸が痛ぇ……」
こんな感覚に陥るのは、恐らく初めてではないだろうか。
そうだ、幸太郎の方から相手を好きになるという経験自体、初めてだと断言できる。
日菜子の時も、それ以外の彼女達を思い出しても、幸太郎は告白されて付き合ってきた。
だから長続きはせず、必要以上に相手に入れ込むこともなかった。
日菜子も「本当に私のこと好きなの!?」と詰め寄ってきて、煩わしくなったから切り捨てただけだ。
じゃあナオに対して煩わしいなどと思うことはあるのだろうか。
「いや、ねーよな……多分」
いつからなのかは知らない。
きっかけもよく分からない。
でも、幸太郎は久住ナオという男性を恋愛的な意味で好きだと言える。
だからこそ日菜子の前で「コイツと付き合っている」という台詞が出たのだろう。
それが己の本心だったのだと、言ってから気が付いたのだ。
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