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第17話

幸太郎は立ち上がると、ナオの方へと手を差し出してきた。 これを握れということなのだろうか。 数々の学生達がイケメンである幸太郎に視線を送っているというのに、この衆人環視の中彼の手を取らねばならないのだろうか。 ナオが逡巡していると、幸太郎が屈んでナオの右手を取り、引っ張った。 「えっと……どこ、行くんですか?」 「ラブホ」 「らぶほ……?」 「ラブホテルの略だ」 そんなことも知らないなんてと、ナオは一人赤面してしまう。 でも、幸太郎にとっては使い慣れた場所なのだろうなと思うと、少々複雑な気分になるのも事実だ。 男であるナオには豊満な胸がない。 柔らかな太腿も、弄れば濡れる蜜壺も、持っていない。 「あの、俺、ゴツいですよ……」 手を引かれて歩きながら、ナオは少々照れ臭いとばかりにそう言った。 「俺の方がゴツいと思うぜ」 「俺、腹筋割れてないです」 「割れてなくても構わねーよ。いきなり何言い出すんだ?」 「だって、俺、男だし……」 幸太郎を満足させてやれるかどうか分からないのだと口にすれば、「そいつはこっちの台詞だ」と言われてしまった。 つまり幸太郎も男相手は初めてなので、上手くできるかどうか自信がないということらしい。 大学を離れてしばらく歩いていると、夜の繁華街が見えてきた。 ラブホテルはこの中に何件かあるらしく、幸太郎は「一番安いとこでいいよな」と言ってナオを振り向きもしない。 言葉では言い表せない不安がナオの胸中に広がりつつあり、少しずつ歩調が重くなっていった。 一見それとは分からないラブホテルの受付に入ると、室内の写真を飾ったパネルが入り口の向かい側に設置されており、使われていない部屋の下に「空室」の表示があった。 幸太郎は一番安い部屋を選ぶと、その部屋の写真の下のボタンを押し、目張りをしてあるフロントへと近付く。 パネルとフロントは何かで繋がっているらしく、幸太郎が歩み寄ると内側からキーが出て来た。 そうか、「これからヤります」なんてカップルを迎えるホテルだから、フロントに目張りをしないと利用者も管理者も気まずいのかと、ナオは独自解釈した。 幸太郎が選んだ部屋は、丁度フロントの対角線上にある一室だった。 鍵を開けて内側へ入ると、薄暗い照明に照らされた室内に大きなベッドがあるだけだった。 「え……?お風呂場がこっちから見える……?」 バスルームは全面ガラス張りで、外から内側が丸見えだった。 つまりナオがシャワーを浴びたいと言ったら、どこを洗っているのかまで丸見えということだ。

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