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第21話

「俺さ、よくよく考えたら自分からコクって付き合った女っていなかった」 「……そうなんですか?」 ナオは幸太郎に背を向けて寝そべりつつ、腰に回された彼の手に自分の手を重ねていた。 「来る者拒まず、去る者追わず……なんでかなって考えてた」 「なんでだったんですか?」 「俺、中学からずっとバスケやっててさ、バスケっつー競技がスゲー好きだった」 ところが、歴代の彼女達は決まって「バスケと私、どっちが大事なの!?」と物凄い剣幕で詰め寄ってきた。 今しかできないバスケが大事だと答えれば、今しか付き合えない私のことは大事じゃないのと返され、返答に窮したことが何度あったことか。 「先輩が言いくるめられるって……スゴいですね」 「下手に嫌いとか言ったら、更に怒らせちまうからな」 「ふはっ、さすがモテ男、悩みの次元が俺とは大違いです」 幸太郎はナオの背中に身体を密着させると、腰に回した腕に力を込めながら、問うてみる。 「お前の悩みって何だ?」 「うーん……言うべきか、言わざるべきか、悩んじゃいます」 「俺に関係あることか?」 「大アリですよ」 すると幸太郎は「何言われてもちゃんと答えてやるから、言ってみろ」と促した。 「先輩が……卒業しちゃうことです。寂しくなるなって……誰と共同論文書こうかなって……」 「共同論文は任意だ。たまたま俺とお前の間に、共通の書きたいテーマがあっただけだろ」 それに共同論文を書いていると、卒業論文の着手が大きく遅れる。 できることなら、卒論一本に絞るべきだというのが、幸太郎の言い分だった。 「なぁ、ナオ?なんで抱かせてくれたんだ?」 「!?」 一番訊かれたくないことを訊かれ、ナオは内心ビクッとした。 どうしよう。 ここで告白してしまおうか。 それとも、告白は別の機会に取っておくことにしようか。 「ナオ?」 「えっと……お、思い出作り……思い出作りです……」 「は?」 「今日、ゼミで先輩達が来春卒業しちゃうって聞いたんです。そしたら、坂上先輩との思い出がないなって……」 やっぱり、今は言えそうにない。 傷付くのが怖い。 拒まれるのが怖ろしい。 「ぎ、逆に……なんで俺のこと抱きたいとか、思ったんですか?」 「抱きたいと思ったからだ」 「誰でもよかった、とか……?」 「んなワケあるか、アホ。俺はそんなに軽卒じゃねーんだよ」 幸太郎は幸太郎で、歯がゆさを感じていた。 好きだとどうして言ってしまえないのだろう。 やはり今まで告白した経験がない、という事実が絡んでいるのかもしれない。

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