21 / 35
第21話
「俺さ、よくよく考えたら自分からコクって付き合った女っていなかった」
「……そうなんですか?」
ナオは幸太郎に背を向けて寝そべりつつ、腰に回された彼の手に自分の手を重ねていた。
「来る者拒まず、去る者追わず……なんでかなって考えてた」
「なんでだったんですか?」
「俺、中学からずっとバスケやっててさ、バスケっつー競技がスゲー好きだった」
ところが、歴代の彼女達は決まって「バスケと私、どっちが大事なの!?」と物凄い剣幕で詰め寄ってきた。
今しかできないバスケが大事だと答えれば、今しか付き合えない私のことは大事じゃないのと返され、返答に窮したことが何度あったことか。
「先輩が言いくるめられるって……スゴいですね」
「下手に嫌いとか言ったら、更に怒らせちまうからな」
「ふはっ、さすがモテ男、悩みの次元が俺とは大違いです」
幸太郎はナオの背中に身体を密着させると、腰に回した腕に力を込めながら、問うてみる。
「お前の悩みって何だ?」
「うーん……言うべきか、言わざるべきか、悩んじゃいます」
「俺に関係あることか?」
「大アリですよ」
すると幸太郎は「何言われてもちゃんと答えてやるから、言ってみろ」と促した。
「先輩が……卒業しちゃうことです。寂しくなるなって……誰と共同論文書こうかなって……」
「共同論文は任意だ。たまたま俺とお前の間に、共通の書きたいテーマがあっただけだろ」
それに共同論文を書いていると、卒業論文の着手が大きく遅れる。
できることなら、卒論一本に絞るべきだというのが、幸太郎の言い分だった。
「なぁ、ナオ?なんで抱かせてくれたんだ?」
「!?」
一番訊かれたくないことを訊かれ、ナオは内心ビクッとした。
どうしよう。
ここで告白してしまおうか。
それとも、告白は別の機会に取っておくことにしようか。
「ナオ?」
「えっと……お、思い出作り……思い出作りです……」
「は?」
「今日、ゼミで先輩達が来春卒業しちゃうって聞いたんです。そしたら、坂上先輩との思い出がないなって……」
やっぱり、今は言えそうにない。
傷付くのが怖い。
拒まれるのが怖ろしい。
「ぎ、逆に……なんで俺のこと抱きたいとか、思ったんですか?」
「抱きたいと思ったからだ」
「誰でもよかった、とか……?」
「んなワケあるか、アホ。俺はそんなに軽卒じゃねーんだよ」
幸太郎は幸太郎で、歯がゆさを感じていた。
好きだとどうして言ってしまえないのだろう。
やはり今まで告白した経験がない、という事実が絡んでいるのかもしれない。
ともだちにシェアしよう!