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第22話
初めて自分から好きになった人、それがナオだというのに、言おうとすると喉がつかえたような気分になって、結局言えなくなってしまう。
「なんか……理由になってるような、なってないような」
「そうか?」
「はい。だから、溜まってたってことにしときますね」
「はぁ!?溜まってねーよ!お前、たまにスゲーこと言うのな!」
ああ、いつものテンポが戻ってきたと、幸太郎は内心安堵した。
まだだ。
まだナオとのこの距離を保っていたい。
卒業するまでにはちゃんとした言葉を用意しておくから、とにかく今は現状維持がベストだと考えることにしよう。
「先輩」
「あ?」
「就活始めたら、スーツ姿見せてくださいね」
「構わねーが、なんでだ?」
「だって、カッコ良さそうじゃないですか。先輩は背が高くてイケメンで……きっとモデルみたいになりますよ」
時は4月。
卒論も就活も始めなければ終わらない時期を迎えたということか。
否、早いヤツらは3年の時からどちらにも着手しているはずで、既に就職が決まって遊んでいる者もいると聞く。
「ナオ、卒論手伝ってくんねーか?」
「……やっぱりそうきましたか。まあ、いいですよ」
「サンキュ」
幸太郎はナオの耳の裏に唇を近付けると、チュッと音を立てて吸った。
そして思い知る。
自分の中に今までに芽生えたことのない、新しい感情が根付き始めているということを。
それから数日が経過し、ゴールデンウィークが終わった。
幸太郎とナオの学生生活も、GWが終了してからはすれ違うようになった。
まずナオは3年生としてゼミに出て、授業に出て、余った時間をバイトに費やす。
幸太郎はナオに手伝ってもらいながら卒論に着手し、日中の時間帯は就活に追われることとなった。
「悪ぃ、ナオ!この参考文献探しといて!」
紺色のスーツに同系色のネクタイを結ぶ幸太郎は、どこからどう見てもカッコイイ。
先日ラブホテルで約束した通り、幸太郎はGW中にスーツを買い、その足でナオの家に来てくれ、スーツ姿を披露してくれた。
そんな幸太郎も、今では一日何件もの面接をこなす、立派な就活人だ。
「頑張ってくださいね!」
大声を張り上げれば、幸太郎は振り向かずに左手を大きく振り上げて見せた。
さて、ナオは幸太郎に託されたメモを見ながら、図書館で文献を探すという作業をしなければならない。
実は今いる場所は大学ではなく、大学近くの公園だった。
幸太郎が大学まで行っていると面接時間に間に合わないとのことで、急遽この公園を待ち合わせ場所に変更していた。
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