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第25話
日菜子がスマホをバッグから取り出すと、ナオはその手をゆっくりと掴んで、首を小さく横に振る。
「ちょっと、どういうつもり?」
「坂上先輩、今就活で忙しいんです……就職難のご時世だし、俺のことで迷惑なんてかけたくないんです……」
「付き合ってるんでしょ、迷惑なワケないわ」
「それ、実はウソなんです」
ナオは、あの時幸太郎が日菜子に言ったことは全くの嘘だったことを暴露した。
「俺達は付き合ってないです……恋人でも何でもなくて、ただの先輩後輩なんです」
そう、これでいい。
こうして真実を明かすことで、幸太郎が日菜子とヨリを戻したいというのなら、それもアリだろう。
そもそもナオは幸太郎の一番になりたいのではなく、二番目でいいと思っているのだから。
「だめよ、とにかく電話するわ」
「日菜子さん!?」
「いい、よく聞いて。アナタは今犯罪に巻き込まれそうになったのよ。しかも私のせいで」
「──っ!?」
「幸太郎にこのことを話して、それでもここへは来ないと言うなら、私がアナタをここから連れ出すわ」
何も言い返せなかった。
自分一人で抱えられる問題ではないと知ったからだ。
それにしても、日菜子が社会人だとは初耳だ。
よくよく訊けばこの近くにある会社に勤務しており、日菜子自身は会社の寮で生活しているとのことだった。
「ああ、幸太郎?私。今ちょっといい?」
日菜子が電話をすると、幸太郎は露骨に嫌そうな声で『今時間ねーよ』と言ってきた。
「久住君が襲われそうになったの。未遂だけど……酷い格好よ。上半身は裸も同然、下半身はとりあえず無事。それでも就活するなら止めないけど?」
『ナオが……?本当に無事なのか!?』
「何ヵ所か殴られた痕はあるけど、意識もしっかりしてるし、まあ……辛うじて無事よ」
『今から戻る!どこにいる!?』
「アナタの大学近くの公園よ」
日菜子はそこで電話を切ると、ワンピースの上に羽織っていたカーディガンを脱いでナオの上半身にかけてくれた。
「幸太郎、10分くらいで戻るって」
「バカな人ですね……折角の面接なのに……」
「バカはどっちよ?でも最悪の事態にならなくてよかった……ホントに……」
日菜子は「ごめんなさいね」と何回も繰り返し、ナオは彼女をどう慰めたらいのかと途方に暮れる。
「ナオ!」
そうこうしているうちに幸太郎が戻ってきた。
心配そうに眉をしかめ、スーツの襟元を緩めて走って来る。
あんな風にゆったりとスーツを着こなす幸太郎もカッコイイなと、改めて思った。
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