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第29話

ナオの身体をお湯で流してやりながら、幸太郎は呟く。 「ああ、血の味がするって言ってたな?お湯で口ん中ゆすいでみろ」 ナオは幸太郎に言われた通り、シャワーの水を手桶で汲んで、お湯を口の中に入れてペッと吐き出す。 吐き出されたお湯の色は、少しばかり赤かった。 「痛いか?」 「いや、それほどでも……先輩、今日ちょっとおかしいです」 「何がだよ?」 「俺のこと、心配し過ぎ……いつもみたいに、適当に放っておいてくれていいのに」 強姦されそうになったヤツが、その台詞を言うのかと、幸太郎はジレンマに捉われた。 「俺は……いつからかは分かんねーけど、お前のことが好きだ」 言ってしまった。 就職先を決め、卒論が終わってから告白するつもりが、それまで待てなかった。 「え……?」 ナオにしてみれば、まさに青天の霹靂だ。 だがきっと「後輩として好き」という意味だろうと、妙な期待をしない解釈をすることにした。 「お前を抱いて、余計にそう思った……男を好きになる俺は、おかしいか?気持ち悪ぃか?」 「あの……先輩が言ってる『好き』の意味って、『後輩として好き』って意味ですよね?」 「違ぇよ。恋愛的な意味だ」 ナオは両目を見開いて、その言葉を咀嚼する。 これは夢だろうか。 3人の男達に犯されそうになったことも、幸太郎の家でシャワーを浴びながら告白されていることも。 ナオはにわかに信じられない現実を突き付けられ、とりあえず自分の頬をつねってみる。 「いてっ……!」 つい殴られた方の頬を刺激してしまい、たまらず声が出た。 「何やってんだ?」 「いえ、夢かなって……」 「夢じゃねーよ、現実だ。お前は俺のこと、好きになれねーか?」 ああ、この流れながら、幸太郎はナオを二番目にしてくれるかもしれないと思った。 だから、今言っておくことにする。 「先輩、俺を先輩の二番目にしてください!」 「は?二番目……?」 「先輩は、大学卒業して社会に出たら、きっと素敵な人と出会う。だから一番はその人で、俺のことは二番目でいいんです。図々しい……ですかね?」 幸太郎はしばしシャワーに打たれながら、ナオの言葉について考えてみた。 自分はナオに好かれていないのだろうか。 否、二番目になりたいと言うくらいなのだから、少なくとも嫌われてはいないはずだ。 じゃあ、なぜ二番目なのだろう。 普通「好き」という感情を持っていたら、一番になりたがるだろうに。 「ナオ、俺よく分かんねーんだけど……なんで二番目なんだ?」 「だから……極論を言うと、先輩のお嫁さんになる人が、先輩にとっての一番になるんです」 「勝手に決めてんじゃねーよ。大体俺が結婚するかどうか分かんねーだろ?」 「普通の人生を歩いてたら、結婚するんです」

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