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~空を舞うプリマドンナ《an・na》~

「ねえ、アレン―――あんたには怖いものってある?あるわよねぇ……ワタシは、よーく知っているわ。あんたが……怖いと思うもの。そうねえ、いろいろとあるけれど……あんたが一番怖いと思うもの……それは、夜・闇・ノワール!!」 「ひっ……こ、怖い……怖いよ……っ…………!!」 情けなくも怯えきってしまっていた僕を静かに上から一瞥すると、《an・na》という少女は天井に張り巡らされた網の上で器用に爪先たちををしたまま、頭上で円を作るように両腕をあげると、いつ切れてもおかしくない程の細い網の上で愉快げにクルクルと回転し始める。 ―――ママが家にいた頃にテレビで見ていた有名な女性バレリーナのピルエットと呼ばれている動きにソックリだった。 すると、その途端―――今まで眩しいライトで照らされていた舞台の周辺が夜のように真っ暗になってしまう。 「まだまだ、これからよっ!!ワタシのノワールの羽根にはね、特別な力があるの……大好きなあの方が………力を与えてくれたのよ。まるで、夢見心地のようだったわ。まあ、今の情けないあんたのままじゃ一生分からないでしょうけどね!!ほ~ら、まだまだ、あんたの怖いものが―――うじゃうじゃ出てくるわよ!?」 ――パサッ ―――パラッ その高らかで甲高い少女の声と共に、何か―――おそらくは少女の黒い羽根が床にパラパラと落ちる音が聞こえた―――ような気がしたんだ。 辺り一面が《ノワール》―――つまり真っ暗闇に包まれて、ハッキリとは分からないのだけれど―――。

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