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空を舞うプリマドンナ《an・na》~
【さあ、可愛いワタシのアレン―――あなたは何が食べたいの!?動物の血が入ったスパゲッティ?―――小さな蜘蛛入りのハンバーグ――ああ、それとも――甘い甘い毒入りケーキの方がいいかしら?ママの手作りの毒ケーキ―――あなたは好きだったものね?】
―――ああ、これはママじゃない。
ママを語る―――【あさの化けもの】だ。
【―――そうね、あのケーキを作るの――とても大変だったもの。あなたの命を奪わない程度の―――毒をケーキに仕込むのは、とても苦労したわ。でもね……っ……】
【可愛い可愛いワタシのアレン、誤解しないで欲しいのよ。ママはアレンが嫌いだから、そんな事をしたんじゃないの。その証拠に、ママはあなたに優しくしたでしょう?ママは―――ママは、ただあなたが困った顔を見るのが堪らなく嬉しいだけよ。愛するあの人を―――たぶらかすアレンの顔を見るのが嬉しいのよ!!】
ママを語る―――【あさの化けもの】が本物のママと全く同じ声で、まるでカナリアが歌うように綺麗な声で僕へ語りかけてくる。
かつてのママ、いや―――【あさの化けもの】はパパがお仕事に行くために家を出て行ってから、部屋に置かれている黒いマリア像に朝のお祈りをした後で―――必ず僕に意地悪をしてきた。
そんな意地悪をしてきても朝のお祈りをした後以外では、僕へ優しく笑顔で接してくるママが―――怖くて堪らなかった。
でも、その事を尋ねようとした時にママが困ったような、悲しげな、怒ったような複雑な表情を浮かべながら僕を凝視してくるのは―――もっと怖かった。
カサ―――、
カサ、カサッ―――
僕の耳に急に入ってきた音は―――いつか、ママがハンバーグの中に入れた小さな蜘蛛の死骸たちが不快な音をたてながら這いずり回る嫌な音。
それを僕が頭の中で理解した時には―――既にママを語る【あさの化けもの】が自由自在に操る小さな蜘蛛の群衆で取り囲まれて追い詰められていたのだった。
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