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~空を舞うプリマドンナ《an・na》~
僕の思惑通りに、勢いを増して跳ね上がったカラーボールは僕の半身ともいえる【an・na】の油断を招き___
____そして、軽やかに遥か上の世界で舞い続けていた、まるで天使みたいな【女の子】は地上へとまっ逆さまに落下していく。
【ど、どうして……どうして……っ……どうしてアタシが舞台から引き摺り下ろされなきゃいけないの……っ……此処は___アタシだけの……天使みたいに可愛いアタシだけの……居場所だったのに……っ……いや、いやぁぁ……居場所が無くなるのは絶対に嫌よ……っ……!!】
落下しながら___【まるで天使みたいな女の子】はさっきまでの余裕な態度が嘘みたいに泣き喚き癇癪を起こす。子供みたいに癇癪を起こす彼女の姿は年相応としか言い様がないもので、彼女が己の半身だという事実をダイレクトに僕の心へと伝えてくる。
狂ったサーカス会場の客席からはマネキンみたいに同じ顔をしてる【紳士淑女の皆様方】からの凄まじいブーイングの嵐__。
そして、その観客席からのブーイングの嵐は___慌てて【an・na】が落下してくる場所へと駆け寄り彼女を抱き止める僕を見た途端に更に激しさを増す。
そんな事なんて、かまうもんか___。
僕は【彼女】を―――心では救いを求めてる僕の半身を楽にしてやる、と決めたんだ。
「an・na―――いいや、もうひとりの僕……キミの居場所はここにあるよ……僕の胸の中だ。本来なら僕とキミは一心同体……僕は僕で、キミはキミ……それでいいじゃないか……今__この苦しみからキミを救ってあげるよ……今までキミの存在を見てみぬ振りをして、ごめん……」
そう言い終えると、僕は先ほど元はスノードロップの花だけれど念じる事で具現化した口紅を持つ手を服を捲って晒け出した腹に移動させる。
《僕は淫乱な天使でも可愛い天使みたいな女の子でもない―――僕はアレンという男の子》
上記の言葉を―――腹に書いた。
今まで、生きてた頃のパパの《淫乱な天使》《天使みたいに可愛い女の子》という言葉が歪みきった支えとなっていた僕の半身__【an・na】にとって僕がそのパパの言葉を否定し受け入れるという行為は―――もはや苦手という感情を通り越して、屈辱的ととれる筈だ。
でも、裏を返せば___それこそが【an・na】を苦しみから解放する手掛かりになるという事だ。
現に、彼女の体(存在というべきだろうか)は地に舞い降りる雪がじわ、じわと溶けていくように消えていく。
【ねえ、神様って___いると思う?もしも神様がいたら……アタシも―――パパやママに愛してもらえたのかな?今頃、ジャックとも……笑い合える何てことない日々を―――過ごせてたの……か…………】
ボォォォォンッ……!!
【an・na】の最後の言葉は___奇怪な爆発音が僕の耳に聞こえてくると共に掻き消されてしまい―――永遠に聞こえる事はなくなってしまった。勢いよく飛んでいたカラーボールが急に【an・na】目掛けて跳ねてきたかと思うと直ぐに爆発し【彼女】は炎と共に消え去ってしまったのだ。
その光景は___かつてパパの車が燃えた日のものとよく似ていた。
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