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~喜怒哀楽の道化師《P・E》
【おやおや、我がサーカス団《ノワール》の紅一点ともいえるプリマドンナは炎に焼かれ消え去ってしまいました!!ですが、紳士淑女の皆様方___これからの演目には大いに期待して下さいませ!!サーカスにピエロは付き物__さあ、喜怒哀楽の道化師《P・E》の登場です……おっと、もう既に紳士淑女の皆様方のお目にかかられていますね……腹ごしらえも済み、このショーのクライマックスを迎える準備までも済ませてあるとは……流石はわたしの親友であり忠実なピエロです】
【あはは……っ……当然じゃないカ……《R》!!ボクは……サーカスの花形であり__キミの本当の親友だからネ!!舞台の上デ呆けながらこの状況を理解デきていないお馬鹿ナが《天使みたいな男の子アレン》とは___訳ガ違うヨ!!】
ノワールというサーカス団の団長《R》と演目の花形だという《P・E》という道化師とやらが愉快げにやり取りをしていのを___僕はどこか遠くにいるような感覚に陥りながらボンヤリと聞いていた。とはいえ、二人の楽しげな会話が完全に聞こえなくなっている訳ではない。
しかし、そのやり取りは観客席からの期待を一心に背負い今までにないくらいに狂ったかのような盛大な拍手の音で掻き消されつつあったのだ。
原因は___それだけじゃない。
先ほど【an・na】と共に消え去ったかのように思われ、まるで化石のように固くなり、一歩も動けなくなった蜘蛛達(ママの姿を装った朝の化け物が繰り出した存在)とママの姿を装っていた【朝の化け物】が同じく彫刻のように固くなりピクリとも動かなくなってしまっていたのだ。そして、それらをフワリ、フワリと唐突に空中から現れ辺りを漂う数個のカラフルな風船がムシャ、ムシャ__バリ、バリッと音を響かせながら食らい付く様が僕の目に飛び込んできて悪い意味で魅了してしまうのだった。
よくよく見れば、それぞれの風船の中央部分には___口が浮かびあがっている。
にっこりと口角を最大限まであげて微笑む口___。
両端の口角を最大限まで下げて白い歯を剥き出しにしながら歯ぎしりをし、途徹もない怒りを露にしている口___。
【ひっく……うっ……うっ……蜘蛛達とアレンのママが__可哀想、可哀想……】と嗚咽を漏らしながら哀しみを露にしている口___。
【ああ、美味い……美味い……今まで散々バカにしてきて虚仮下ろしてくれた罰があたったんだ……アレンの奴は……自業自得さ】と大口を開けてガハハと笑い喜びを露にしている口___。
その奇怪な風船から発せられるどの声もが、僕にとって馴染みのある気弱で苛められっ子___エディのものだと気付いた途端、途徹もないショックを受けて脱力してしまった僕は思わず膝の力が抜けてしまう。
その直後___この奇妙としか言い様のない舞台の上で尻餅をついてしまうのだった。
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