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~あの朝の真実を身をもって君に教えてあげる~

◆ ◆ ◆ キィッ___ バルーンで出来た偽物の扉だっていうのに、本物の扉みたいに甲高く軋む音がして僕は不自然さを感じてしまう。 ここは、【道化師 P・E】の世界であるのだから__【お人形さん】である今の僕がそんな事を感じた所で意味なんかないし、どうしようもないと分かりきっているのに。 「あ、あれは――僕……それに、それに……郵便屋のお兄さん?」 【…………さあ、アレン__ここからが本番だよ……ボクの真実の愛のキスを――君にあげる】 悲しそうな、それでいてどこか満足そうな笑みを浮かべた【道化師 P・E】はソッと優しく己の唇を【お人形さん】と化している僕の唇へと押し当てた。 まるで、生前に____ジャックが僕にしてくれていた甘いキスみたいなとろけるソレを受け入れざるを得ないまま少しばかり時が過ぎて咄嗟に瞑ってしまっていた目を開ける。 次の瞬間__僕は、もう【お人形さん】じゃなくなっていた。右手に持っているのは、エディがよく作っていた【四角い箱の機械仕掛けのパズル】___。目線を下に落とすと、あの朝__パパが死んじゃった日のエディが着ていた服を見に纏っている事に気付いた。 (僕は今____あの日のエディになってる……どうして……どうして……こんなっ……) そんな疑問を思う暇さえなく、僕は自分の意思とは無関係に____どこかへと歩みを進めていく。遠くから、バルーンアートと化した【僕】と【郵便屋のお兄さん】の声が聞こえているけれど、その方向とは逆方向へと歩んで行く。 ふと、ピタリと足を止めた____。 物陰に隠れながらエディと化している僕の視線の先に____パパの車がある。パパは仕事前に馴染みがあるカフェで一服するのが朝のルーティーンだったから、ここはカフェの駐車場だ。寂れたカフェに、人気はあまりない。パパはうるさいのが嫌いだったからこそ、この人気が少ない寂れたカフェに入り浸りだったのだろう。 僅かな間、カフェで過ごすパパに視線を向けていた【エディと化した僕】だったけれど、ふいに__パパの車へと近づいていく。右手にはパパの車の鍵(おそらくコピー)と左手にはエディが自作した【機械仕掛けのパズル】を持って__どんどん近づいていき、やがて運転席に静かに忍びこんだ。 そして、車のアクセルのペダル____その下に自作のパズルを忍び込ませる。まるで、運転するパパにバレる訳にはいかないとばかりに慎重に__しかし素早く忍び込ませると、すぐにそこから離れて次に行かなくてはいけない場所へと足早に歩いていくのだ。 「ア、アレン____何をしているの?」 【あの朝の日のエディと化した僕】は__バルーンアートと化した【郵便屋のお兄さん】と【僕】へと何事もなくいつも通りの弱々しい顔をして話しかけるのだった。 その後、【エディが自作した機械仕掛けのパズル】が仕込まれているアクセルペダルを踏んだパパの車はまたたく間に炎上し__パパは死んだ。 パパを殺したのは____エディだったんだ。

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