93 / 98
★団長【R】が奇妙なサーカスの《真実》を届けにくるよ★
※ ※ ※
「ねえ、郵便屋のおにいさん。ミユキって……誰なの?」
「二人きりになったとたんに、出てきた言葉がそれなのか。アレン、キミは案外と愚かだね。オレはちゃんと__キミに深雪の存在を教えてあげていたじゃないか……覚えてないかい?ああ、その手紙の中身をきちんと見ていないんだね。その写真に見覚えはないのかな?」
その後、半ば強引に郵便屋のおにいさんに手を引かれ、小型の観覧車遊具に乗り込んだ。
長い長い沈黙に耐えきれなくなった僕は、震える声で向かい側に座る郵便屋のおにいさんに尋ねてみた。
すると、郵便屋のおにいさんは最初の頃――つまりは、ジャックやパパが生きていた頃と変わらない穏やかな笑みを戸惑いの色を浮かべる僕へと向ける。
(そういえば……ちゃんと手紙の中を確認していなかった……あの、ラビットとかいう白い犬が現れたから……っ__)
と、ふっとヒトの言葉をしゃべった白い犬の存在を思い出した僕は思わず息をのんでしまった。
それは、かつてエディが郵便屋のおにいさんと共に公園のベンチで休んでいた時の会話を思い出したからだった。
あの時、郵便屋のおにいさんは ウサギみたいな白い犬を『オレにとって大切な子が名前をつけた』と言っていた。
「___ミユキは郵便屋のおにいさんにとって……大切な子だったの?」
「うん、深雪は郵便屋のおにいさんの大切な妹――だった。いいや、存在が消え去った今でも……大切な妹だよ……アレン__オレが何故、キミを奇妙なサーカスへ誘ったか――本当は賢いキミだ、うすうす分かっているんだろう?」
「…………」
郵便屋のおにいさんの言うとおり、僕は郵便屋のおにいさんがこんなことを企んだ意味が徐々に分かりかけていた。
だからこそ、すぐには言葉が出なかったけれども郵便屋のおにいさんの鋭い視線に耐えきれなくなった僕は意を決して口を開く。
「_____あの朝、僕の家のポストに《愛しのクロフォードへ》って書かれた手紙を入れたのは郵便屋のおにいさんで……中に入っていた写真にうつっているのは……妹のミユキ。ミユキは……パパに酷いことをされて__それだけじゃなくて……その後に――手にかけられて命を奪われた__息子の僕にすら話してなかった趣味の猟銃で……っ__彼女を…………」
あまりのショックに、過呼吸になりかけながら――しどろもどろに僕は言葉を紡ぐ。
「アレン……キミはやっぱり賢い子だったね。ただ、少し……キミは勘違いしている箇所がある。深雪は、確かにキミの父のクロフォードに命を奪われた。でもね、直接的に命を奪った訳じゃないんだよ。深雪はね、キミの父クロフォードに犯されたせいで死を選ばざるを得なくなった__彼女は身も心もボロボロにされてしまったからね。このウサギのぬいぐるみのように……」
「___だから、郵便屋のおにいさんは……エディを利用してまで、この奇妙なサーカスに僕を誘ったの?パパの血を引く__僕をやっつけるために?」
「そう、そうだよ……アレン。オレは大好きな深雪の無念を晴らすために、アレンが大好きだというエディの気持ちを利用してクロフォード始末した。そしてクロフォードの息子のキミを奇妙なサーカスへ誘った。奇妙なサーカスなんて現実離れしてるし、《憎しみを抱いてるヤツを夢幻の世界に誘える》なんていう影みたいな男の言葉を信じた訳じゃなかったけど現実になった……そして、キミとキミのママをここまで追い込んだ……全ては影みたいな男から貰ったこの箱のおかげだ……っ……」
とても綺麗な緑が目を引く制服のズボンのポケットから、郵便屋のおにいさんは――おもむろに何かを取り出した。
それは、正方形の黒い箱____。
彼は、まるで、恋をする少年のようにうっとりとしながら、澄んだ瞳でその黒い箱を見つめ続ける。
「それは、それとして……アレン、彼処を見てごらん?きっと、キミは――とても喜ぶ……ずっと探していた人だよ?」
ふいに、郵便屋のおにいさんは、外のとある場所に目を向けると、すっ――とある場所を指でさした。
「マ、ママ…………ッ……!?」
アレンは観覧車の形をした小型の遊具の窓から身を乗り出すようにしながら、郵便屋のおにいさんが指し示した場所を見つめつつ叫び続ける。
自分の誕生日パーティーを行った日と同じ白いドレスを身に纏ったママが__公園の芝生の上に倒れていてピクリとも動かない。
しかも、ママの周りを円で取り囲み表情のない老若男女達が歓喜の歌を口ずさみながら踊り狂っている。
ぐる、ぐると周り続ける観覧車型遊具から衝動的に身を乗り出しただけでなく僕はそのまま外へ向かって駆け出そうとしていた。
しかし____、
「アレン…………賢いキミなら、これからキミがやらなきゃいけないことが__分かっているだろう?」
郵便屋のおにいさんの意味ありげなその言葉が、僕の足を止めさせたのだった。
ともだちにシェアしよう!