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★団長【R】が奇妙なサーカスの《真実》を届けにくるよ★

「_____その前に、僕はまだ郵便屋のおにいさんに聞かなくちゃいけないことがあるよ……僕がしなくちゃいけないことをするのは、それを聞いてから……」 「何だい、賢いアレン?オレが奇妙なサーカスを開催してキミを招待した理由は、最愛の妹の命を理不尽に奪ったクロフォードという男とその息子のキミに復讐するということだと……教えたんだけどな?」 今までズボンのポケットに仕舞っていた《願いを叶えるスノードロップの花》を、再び右手に握り締めながら僕はピエロのように愉快げにおどける郵便屋のおにいさんの吸い込まれそうな程の黒い瞳をまっすぐに見つめながら尋ねた。 パパが深雪という女の子に対して【罪】を犯したことは分かる。 パパから酷いことをされた深雪という女の子は、それが原因で精神的に弱りきって壊れてしまった。その後に精神的な問題を治療する病院に入れられてしまったのだろう、ということも何となくだけれど分かっていた。 その後、犯した【罪】を許せずに団長【R】こと郵便屋のおにいさんがパパをやっつけたのも分かる。 でも、これだけは僕には決して理解できないということもあった。 「郵便屋のおにいさんは、どうして罪を作ったパパやその血を受け継いだ息子の僕……それに利用していたエディだけじゃなく、【罪】には無関係のママやジャックを巻き込んだの……っ____!?どうして、どうして……っ……」 「なあ、アレン……逆に聞くけれど、どうしてキミはママやジャックが無関係だと思ったんだい?キミのママは、酷い女。キミと違ってクロフォードの反吐が出そうなくらい醜い本性を知っておきながら、そしてなおかつ深雪が苦しんでいるのを知っていながら__夫からの叱責を恐れて見てみぬふりをした」 「嘘だ、嘘だ……嘘だ……っ____あの気弱だけれど世界一優しくて間違ったことなんて言わないママが弱りきっている僕と同年代の女の子を見捨てるという酷いことをするはずがない!!」って、真正面にいる郵便屋のおにいさんへ叫んでやろうと思ったんだ。 だけど、そんな僕の思いも虚しく言葉を言い放つどころか石像みたいに固まっちゃった。 ママは確かに郵便屋のおにいさんが言うように、生前のパパに歯向かうなんてことは出来なかった人だから。 「りょうさいけんぼ……って――そういうものなのよ。分かるわよね、天使みたいに可愛いくて周りの子よりも格別に賢いアレンだもの。ママはね弱い訳じゃないのよ。周りのあまり賢くないみんなは好き勝手に言うけれど、ママはそれだけあの人を愛してるだけなのよ」___。 まるで林檎みたいに真っ赤なお酒を飲みながら、ママがナニかに憑依されていたみたいに言ってたのをフッと思い出してしまった。 【罪】を行う存在は赦されない____。 【罪】を見てみぬふりをする存在も赦されない____。 郵便屋のおにいさんが、言いたいのはそういうことなのだ、と僕にはとっくに分かっていた。 僕がどうしても分からないのはジャックのことだ。 ジャックは郵便屋のおにいさんが示す【罪】の件には全く関係ないはずなのだから。 「どうして、ジャックを巻き込んで……やっつけちゃったの!?彼は……郵便屋のおにいさんの妹の事件とは関係ないのに……っ……どうして、あんなに……ぶっきらぼうだったけど本当は純粋なジャックをやっつけたの!?」 「…………」 郵便屋のおにいさんは、途端に口を閉ざして黙ってしまった。 いや、唐突に起こった変化はそれだけじゃない____。 目に涙を浮かべて俯いてしまった僕はある異変に気付いた。右手に握り締めている《スノードロップの花》が、いつの間にかジャックの最後に貰った《一輪の薔薇の花》へと変化している。 正面に向かって、ゆっくりと右腕をあげると、僕は郵便屋さんの胸元に当たりそうな位置で《一輪の薔薇の花》を持つ手をピタリと止めた。 「僕のパパの手によって理不尽に奪われた可哀想な妹の復讐のためだって言いつつも、どうしてそれに関係のない可哀想なジャックの命を理不尽に奪ったのか、郵便屋さんの口から教えて……っ__!!」 「それはね、アレン___勘の良い賢いジャックがキミを守ろうとして……僕を責めるような行動を起こしたからだよ。妹の復讐の舞台の邪魔になったから、俺はジャックという演者をやっつけた__ただ、それだけの……っ____」 郵便屋のおにいさんが話している途中で、唐突に辺りが静寂に包まれる____。 いつの間にか、《スノードロップの花》だった武器は形を変えて《一輪の薔薇の花》になり、またしてもその歪な形を変化させていた。

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