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† エピローグ † ①
*
今、やるべきこと____
それは、かけがえのない友達を探すこと。
廃墟の中で横たわりながら容赦なく襲ってくる突き刺さるような肌寒さと、窓を打ち付ける雷鳴まじりの雨風に怯えながら震えていた。
でも、頭の中に《友達の笑顔》がフッと思い浮かぶ。だからこそ、恐怖と体を襲う鈍い痛みと針のように突き刺さってくる寒さに耐えながらも、ゆっくりと立ち上がったんだ。
全身の鈍さをともなう痛みに加えて、ズキン、ズキンと脈うつような頭の痛みを必死でこらえながら周りをキョロキョロと見渡してみる。
すると____、
『____♪♪……♪♪♪~~』
人の気配すらない――けれども、どこかから音楽が聞こえてくるのに気付いた。
その聞き覚えのある懐かしい音楽は、どこか遠くの方から聞こえてくるのだ。
『これはね、ドビュッシーの《月の光》という音楽だよ……有名だから聞いたことがあるんじゃないかい?』
かつて、よく来て遊んでいた公園で《大切な友達のうちのひとり》が教えてくれた
穏やかな笑みを浮かべながら、視線を手元の方へと落として音楽について教えてくれたその人物は《かけがえのない友達》だ。
その思い出の中の音楽が、今いる場所ではない何処かから聞こえてくるのだ。
まるで、夢遊病者のごとくフラフラとした足取りで《月光》のリズムに誘われていく。
《月光》の音楽に心地よいリズムに誘われ、長い長い廊下を歩んでいき、やがて壁はひび割れ、床には家具らしきものが点々と倒れている廃墟には似つかわしくないチョコレートのような色合いの扉の前でピタリと足を止めた。
ふと、気がかりついた時には__すぐ近くにある小窓の外で豪々と雨風が荒れ狂い、なおかつ雷鳴が轟いていた空模様がすっかりと変化して灰色の雲間から出た月明かりが、まるで『おいで、おいで__』をするかの如くチョコレート色の扉を照らしている。
一度、深呼吸をすると、ギィィッ____と音が鳴るくらいに重い扉へと手をかけ、そのまま小刻みに震える足を踏み出すのだった。
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