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episode.1-6
「お前こそ子供扱いするなよ」
「別に子供扱いはしてませんよ」
青年は怪訝なさまだった。
その指先はごく自然に、萱島の目元に掛かる前髪を払う。
ぴくりと反応した肩が震える。
そうして何か、結局隠す様に歩調を速めていた。
「…面倒見良いよね」
相手よりも前に踏み出し、茶化した台詞は地面へ落っこちる。
「モテるだろ、お前」
「そうでも無いですよ」
「ふふ」
不意に萱島は堪え切れず、相好を崩した。
「ごめん。あのさ、牧にお前が女の子と歩いてる写メ見せて貰って」
「はい?」
戸和は不服から眉を顰めた。
対して可笑しそうな上司は、いたずらっぽく笑う。
「ターコイズ喫茶の前歩いてるの偶々見たって」
「…アイツ」
「彼女可愛いな」
取り繕おうと、隠し切れない棘があった。
なんて面倒な詰問だ。
「同じ大学?」
「ええ、別れましたけど」
あっさりと告げられる事実に呆ける。
矢張り彼女だった。
でも別れたらしかった。
良かった…良かったのだろうか?果たして。
自分から振ったというのに、萱島は実に気のない返事で話題を締める。
彼女が居たから何なのだろう。
別れたから何だと言うのか。
自分は責任者で、彼は部下で。
こうしてプライベートで会うことすら、信じ難い程度の、業務以外のメールなど交わした例も無い。
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