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episode.1-7
「牧と遊んだ事ある?」
結果、繋いだ話題は唐突だった。
ただ戸和は疑問も挟まず、端的な否定を返してくれた。
「間宮とは?」
「…いえ、立場上つるまない様にしてたので」
「よし」
そのポジションは奪取した様だ。
いっそ、キャラクター前で写メでも撮って送り付けてやろうか。
馬鹿な事を考えている間に、エレベーターは最上階に辿り着いた。
開けた光景に意表を突かれつつ、萱島はちょろちょろとフロアへ先立った。
「わーー…」
気の抜ける声が漏れる。
どうにか字面が見える程度の、薄暗く広大な空間が飛び込んでくる。
天井を見れば測れないまでに高い。
そうして頭上からは、ライブ会場の如きライトが縦横無尽に注がれているのだ。
「此処で映画見んの?最新って立ち見?」
素人過ぎていっそ清々しい。
放っておけば走り出しそうな上司を、戸和は面白い物の様に黙って眺める。
チケット売り場を見れば空港みたいだと騒ぎ、仕掛けに逐一反応して1人で楽しそうにしている。
まるで田舎から出てきた修学旅行生の様だ。
「萱島さん、はい」
チケットを渡した。
恰も幻のアイテムを手にしたかの如く、萱島は目を輝かせた。
「あ、千切る所付いてる…これ何どうしたらいい?」
「彼に渡して下さい」
戸和はゲートのスタッフを示した。
恐る恐る通過したかと思いきや、萱島は悄然と部下の袖を引く。
「何か返された…」
「大丈夫ですよそれで、失くさないで下さいね」
「え、あ、はい」
聞き分けよくポケットに仕舞おうとして、どうしようか困り果てる。
失くしたら死ぬとでも思っているのか。
可哀想な子供の姿を見兼ね、戸和は親切心から半券を取り上げていた。
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