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episode.1-11
エンドロールが流れ出す頃、再び場内の照明が機能した。
観客が席を立ち、まばらな空席が現れる。
同時に重ねられた手がすっと離れた。
(あ、)
いっそ掴んでやろうかと思った。
出来る訳もないが、どんな顔をするのだろう。
寂しそうに見上げると相手も此方を見詰めていた。
疑問の焦点は異なっていたものの。
「…起きてました?」
「起きてたよ」
口を尖らせる。
彼の優しさのお陰で、内容はすっかり飛んでいたが。
「ちゃんと見てた。クレイドが食べてるオムライスが美味しそうだった」
「お腹空いたんですね」
「良く分かったな」
何故か誇らしげな顔になる。
呆れられるかと思えば、相手は思いやりに満ちた色を浮かべていた。
戸和は優しい。
出会った当初から今に至るまで。
「もう平気ですか」
そう。思い返せば、こうやって何だかんだと心配を傾ける。
どうせ単に、手間の掛かる子供だと思われているにしても。
「…お前が手握ってくれたから平気」
言って萱島は自分で恥ずかしくなった。
ただ気に掛けて構ってくれるのなら、もう子供でも良いかとさえ思える。
5つも年上なのだが。
悲しいかな。そんな感覚は当人にも周囲にも何処にも無いのだ。
「オムライスとナポリタンとビーフハンバーグが食べたい」
「…全部食べるんですね」
「あと社長に悪趣味なお土産買って、屋上から夜景が見たい」
我儘を一杯に言われて、多少なりと困ったら良いのに。
そんな迷惑な考えを抱いてから、そう言えば自分はいつも周りの人間にゴネてばかりだと気が付いた。
わあ嫌な人間。
萱島は決めた。今年はもう少し、人に思いやりを持とう。
囲む人々が揃いも揃って優しいものだから、只管に甘えていられたのだ。
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