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episode.1-13
(ひい)
近い。間は僅か15センチ。
至近距離で交わる視線の威力が、遂に息すら封じる。
相手は何の気無いのだろうが。
意識せざるを得ない、
自分は呼吸すら上手く出来ない。
間近に迫る瞳が正視する。
其処にひとり、金縛りにあう自分がいる。
動悸が酷い。
とても見ていられない。
耐え切れなくなって俯く寸前、充血した右目に水滴が落ちていた。
「…、っう……お、お前…」
萱島は右目を押さえて蹲った。
意表を突かれたとは言え、やはり衝撃は凄まじかった。
「め、目がァ…」
「絶対言うと思いましたよ」
「差すなら差すって言えよぉ」
「言ったら避けるでしょう」
ごもっとも。
たかが目薬如きで此処まで騒いでしまった。
仕方なく未だ右目を押さえたまま、萱島はトボトボと彼を追い掛ける。
至近距離の余韻に、心臓が未だに跳ね回っていた。
加えて少し、乾いた瞳に目薬が痛い。
「…目に水が入ってきた」
「そんな事より萱島さん、店は何処にするんですか」
「ファミレス」
即答だった。
せっかく著名な店が並ぶ大型施設に来ておいて、ファミレスを熱望する大人が居た。
「もう少し他にあるでしょう」
「他にって言われても…この前散々間宮に味覚オンチって詰られて、一生ライスだけ食ってろってキレられたのに」
「まあ、確かに萱島さんの舌はいかれてますが」
「…いかれてるんだ」
「せっかくの休みなんですから、偶には違う店にしましょう」
言って部下に腕を引かれた。
ちょっと想定外だ。
強引なその態度へ、萱島は図らずも気圧され黙っていた。
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