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episode.2-1 「a steep and rapid fall」
何だかぴりぴりしている。
朝礼前に2人、資料を片手に話し込む責任者へ思う。
正確に申し上げればぴりぴりしているのは主任だけで、青年の方は口調も淀みなく違和感無い。
「ふむ…」
海堂は首を傾けた。
迷える現場の人間さながらに。
PCの画面には少々目の粗い拡大映像が、現実に遅れて流れ込む。
隅の方に申し訳程度に開かれた情報共有システムに、新たなメッセージが点滅した。
『間宮(C):海堂くん』
ついでに赤字は督促だった。
『海堂くん昨日の議事録は?』
歯軋りして通知を削除した。
今はそんな事に感けている場合じゃない。
(どうした萱島さん、何をそんなに苛々している。ま、まさか今朝の電車で痴漢に…)
『おい童貞 議事録』
海堂は頭を抱えた。
ホワンホワン。脳内に空想の世界が広がった。
朝の通勤電車。
ドアに背を預け、疲労から船を漕ぐ主任。
その無防備な姿の前に男が立ちはだかる。
男の厭らしい目が光る。
僅かに上下する、彼の胸元へ汚らわしい手を…。
「う、うおおお…!」
『議事録!』
勝手に妄想し、海堂は勝手に悶え苦しんだ。
当人は至って真剣だった。
彼にとって、萱島沙南という上司は(幾ら己の妄想の中では汚していようが)純白のアイドルであった。
『千葉(C):だからお前は童貞なんだ 童貞はいつも問題を先延ばしにする』
『一ノ瀬(SC):童貞を一括りにして傾向を決めつけ、かつその人間性まで否定する意見はどうかと思う』
主任、痴漢に遭ったんですか。とは聞けない。
そして妄想は止まらない。
下も触られたんだろうか。腕を組んで項垂れる海堂の、額を一筋の汗が伝う。
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