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episode.2-4
普段は用のない資料室の扉を開ける。
資料室とは名ばかりで、実質は大方が電子化された現場においてただの保管庫だった。
扉の閉まる音が大仰に響いた。
咳払いをひとつ、萱島は背後の部下を振り返る。
「改まって何だよ、この期に入れ替えの話でも出てんのか」
「別に仕事の話だとは言ってませんよ」
「…へ?」
あっけらかんと言う青年に耳を疑う。
仕事以外に彼が、何を態々自分を呼び出す必要があるというのか。
「え、じゃあ何の話?」
「今後の」
だから何の。
萱島は口を噤んだ。
間を詰める様に、戸和が一歩ずつ此方に歩み寄る。
思わず連動して後退り、相手から距離を取っていた。
「…逃げないで貰えます?」
「や、あの…だってお前が…」
来るんですもの。自分ではごもっともな主張だと思うが、青年の目は更に険を増す。
用の無いスペースはそれ程広くもない。
薄暗い一室、直ぐに背中が壁にぶち当たる。
止まる気のない部下に青褪めた。
理由も分からず迫られると恐怖を覚えるのは、致し方の無い事だった。
「と、戸和くん…止まろう…一回、止…」
語尾が情けなく吸い込まれる。
もう微塵も余白のない壁際、もう目鼻の先に気配が迫っていた。
視線が合わせられない。
萱島は俯き、背中へ妙な汗を流す。
「人と話す時は目を見て下さい」
殆ど頭上から声がした。
ともすればその体温や、息遣いすら感じ取れる距離に居た。
萱島の心臓が尋常でない速さで脈打つ。
どうしたら良いか分からない。
今日は怒られるような覚えもなく、息を殺し、小指の先すら動かせず固まっていた。
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