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episode.2-6
「機嫌悪い?」
比較的和気藹々とした本部。
間宮は同僚の言葉に首を傾げ、連動してシャツの胸元から覗くシルバーが揺れる。
専ら内勤の彼らには、殆ど服装の規制がない。
間宮は前職のホストそのもので、隣の班長代表に至っては自宅の如き寛ぎを見せている。
「何、お前が盗視に夢中になってた言い訳がそれか」
「主任は電車通勤を早急に止めるべきかと」
「ふんふん…成る程分からん。日本語喋れ」
海堂が奥歯を噛み締めた。
クソが。何故理解しないと言いたげに。
「…痴漢だ!間宮、主任は痴漢に遭ったんだ!」
「お前が昨日見てたAVの話はどうでも良いわ」
上体を屈めて液晶を覗き込み、間宮は盛大に舌打ちをした。
ほんと、ゴミみてえな作りだと聞こえよがしに…製作者の眼前でポータルを批判する。
海堂は苛立たしげに唸った。彼が何か反論しようとした矢先、メインルームの自動ドアが開いた。
「…帰って来たぞ」
首を擡げる。
直接聞けば?等とデリカシーの欠片もない台詞と共に背中を押される。
半端な位置で立ち止まる海堂に、萱島は気付いて視線を寄越した。
毛程も感情の無い目で。
そうして何か、海堂が声を掛ける間も無く去って行く。
流石にこの反応には間宮も異常を察したらしい。
ガタンと些か乱暴に席に着く姿を見守り、隣の男と顔を突き合わせる。
「うむ…経験則から行くと放っといた方が良さそうだ」
「今から研修内容の相談をしようとしてるのに?」
間宮は腕を組んだ。
よもや物で釣ろうと…隣の職員に何か菓子の類は無いか、問い掛けた時だった。
自動ドアを割り、今度は颯爽とイケメンが現れた。
黒いジャケットを靡かせ、久方振りに現れた副社長へぎょっと席を立つ。
これは好機だ。
咄嗟に踏み出すや、間宮は彼の行く先を遮り留めていた。
「ちょ…すんません、副社長」
驚いた両眼が此方を向く。
相手は忙しい最中だろうが、矢張り律儀に脚を止めてくれた。
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