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episode.2-7
「何だよ」
「いや…主任の機嫌が」
「何、悪いって?」
眉根を寄せる。
背後ではその存在に気付いた職員らが、矢庭に騒がしくなり伺う。
彼は社長と同程度にエンカウント率が低い。
ただし雇用主と異なり、漂うのは好意的な視線と歓迎ムードだった。
「何か言われたか」
「いや、逆。何も言わんくて」
どうしたもんかと。
間宮の何処か大人びた色へ上司は動きを止めた。
普段から任せっきりの事態に気を揉んだのか。
労るかの如く目を眇め、甘い声を出す。
「ばか、お前がそんな顔しなくて良い」
無意識であろう手が、間宮の曲がった襟を正す。
そうして軽く肩を小突いて去って行った。
抱いてくれ。
相も変わらず男前な上司を、間宮は素直な感想を胸に見送った。
萱島は近付く気配を察して顔を上げた。
歩み寄る姿を認め、それでも何か挨拶も浮かばず、また画面へと視線を戻す。
「よう」
隣に本郷が掛けていた。
愛想悪く、短く返事のみを投げた。
「お前に担当して欲しい子の履歴書、見といてくれ。1人は採って欲しいけど、もう全部任すから」
操作していたキーボードの隣に、クリアファイルが置かれた。
面接官など無論、生まれてこの方経験した試しが無い。
「…済みませんが、何をして良いやら」
「別に面接なんて堅苦しく考えんな」
長い脚を組み、スラックスのポケットに手を入れたまま上司は相好を崩す。
「5分か10分話をして、お前が一緒に働きたいと思ったら教えてくれ」
それならば難しく無い。萱島は了承し、漸く隣の男に目をやった。
本郷はじっと此方を見ていた。
一寸その眼差しに怯み、挙動が止まった。
「疲れたか」
また例に習って、本郷は甘ったるい声をくれる。
疲れているのはどっちだ。
呆れて指摘しかけた台詞を飲み込み、萱島は首を振る。
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