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episode.2-8
「元気無いな、本当にどうした」
伺う両の瞳が色を変える。
それがふと、真剣に心配する空気を醸し出し、流石に萱島は仕事を投げて向き直った。
「…疲れてないし元気無くもない。本郷さんはそんな事より御自身の心配をされた方が良い」
険しい目つきで早口に言い切る。
一瞬気圧され、上司はきょとんとした。
勝手に1人荒れ気に掛けてくれた相手にすらこの始末。
また子供の様な甘えが出た。
使いを寄越せば足りる事を、態々多忙の中顔を見に来てくれたというのに。
悄然と眉尻を下げ、萱島は内省した。
薄いクリアファイルを取り上げ一転静かな声で言った。
「いえ…その、ありがとうございます…選考の件尽力しますので」
機嫌が悪いと言うよりは。
他人の機微に敏感な本郷は悟った。
何かに動揺しているだけだ。
原因は知れないが、お節介に入れ込む程じゃない。
もう正気を戻した目を確認するや、本郷は部下の頭を撫でるに終えた。
「…助かるよ、じゃあな」
話したく無いのなら、根掘り葉掘り問う必要も無い。
軽い挨拶だけで席を立った。
そうして間宮に目配せを返し、メインルームを後にする。
未だ耳が熱い。
上司の去ったのち、萱島は憮然とした表情で患部を押さえた。
彼にすら変に思わせた。
そう自分は変だ。
間違い無く、あるべき姿でない。
(…話って何だよ)
目元を覆った。
話なんて自分からは、無い。
話なんて、話したい事なんて、ひとつしか。
(あ)
唐突に萱島は顔を上げた。
そう言えば先ほど、何か部下が声を掛けようと伺っていやしなかったか。
すっかり景色として扱った行為を思い出し、勢い良く席を立った。
そして急かれるまま距離を詰め、虚を突かれた海堂に身を乗り出していた。
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