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episode.2-10
***
すっかり日付を跨いでしまった。
零にリセットされた携帯の時計を見やり、上着に仕舞い込む。
依頼に追われている訳でも無い。
当たり前に閑散とした休憩所を、廊下を足早に過ぎた。
自動ドアが開く。
屋内にも関わらず、一瞬ひやりと木枯らしにも似た風が抜ける。
2月の地下は想像以上に冷える。
更に照明も儚く、誰もが早い帰宅を望む。
その寂しいメインルームに、1人画面に向かう人影があった。
液晶の光に疲れた表情を照らされて。
時折手を止めて、
ぴたりと思考に専念する。
距離を詰め、明らかな靴音が響いているのに。
彼は気が付いていないらしかった。
「萱島さん」
「……!」
名を呼べば、擬音が付きそうな勢いで顔を上げる。
青年を見つけた萱島は、途方に暮れた様に固まった。
「他は?帰ったんですか」
反応が無い。
青年は首を傾ける。
未だ、距離がある。
その向こうで上司は数秒して、ようやっと声を出した。
「…え、ああ、他…は」
視線が四方八方を彷徨う。
「ファミレスに…行きました」
終にコンビニのローテーションに負けたのか。
向かいの中華屋は開いていたが。彼らの選択肢には元より入っていない。
「牧と間宮?」
「…と、千葉くん」
萱島の指先が再びキーを叩き始めた。
だが如何せん、不安定なリズムで。
鞄を肩から外し、戸和はゆっくりと其方に向かった。
いつもの隣の、自分の定位置へとそれを降ろし、不自然な程画面から目を離さない上司を眺めた。
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