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episode.2-12

「いつまで同じ画面開いてるんですか」 頬杖を突いた戸和が、不思議そうに言った。 「…ほっとけよ」 心からそう返した。 手元のボールペンを取り上げ、所在無く唇を突いた。 かと思えば急に右手を掴まれた。 ガシャン。 支えを失ったペンが机上に落下する。 「な…何でしょう」 「話を聞いて下さい」 「今俺勤務中だから…業務外の用件なら…後に」 どの口が。 不平を露わにした戸和の片眉が吊り上がる。 「会社の回線で馬券買ってる人間が言えた事ですか」 「…おい履歴残さん方法ってあのサイト…ガセか」 渋面でぼやいていたが心底どうでも良かった。 変わらず未だ此方を見ない、上司の指先を開かせて勝手に絡める。 面白い様に横顔が染まった。 指先は想像以上に冷えていた。 いい年した男の癖に、華奢で滑らかな、凡そ銃を扱っていたとは思えない手指を握る。 「萱島さん」 大人しくなる。 雑音一つ無い、静かなメインルームに戸和の声だけが落ちていた。 「俺と付き合って下さい」 きゅっ、と刹那力が籠もった。 「……」 けれどそれきり、萱島は本当に黙ってしまった。 タイプもやめて身動ぎもしない。 ただ其処に居て、PCを前にしている。 「返事は?」 別に拒否でも、延滞申請でも。 何かしら言葉を返してくれれば良いものを。

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