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episode.2-13
「……え?」
満を持して顔を上げ、青年を見た萱島はすっとぼけた。
「ごめん、何て?」
「聞こえてたでしょうが」
「あ、痛っ…すいません、聞こえてます」
指の股を軽く絞めるやあっさり音を上げた。
何だこの状況。
萱島は混乱の渦中に落とされ、惑い手も足も出なかった。
言おう言おうとして、結局臆病から秘めていた台詞を。
何がどうなって、相手の方から今突き付けられていた。
いや正確には違った。
好きだ、とは思ったが。
(付き合いたいとは…)
付き合う。
そもそも付き合うとは、一体。
「…あの、それは恋人としてでしょうか」
「勿論」
あっさりと肯定する彼に、いよいよ隅へと追い込まれる。
「その、手を繋いで植物園を散策したり…」
「植物園…はどっちでも良いですが、行きたいなら連れてきますよ」
頭の中を如実に表したかの様に。
ぐるぐると萱島の瞳が渦を巻く。
それは何か、キスをして果ては…。
残念ながら萱島の思考回路は完全に其処で焼き切れた。
こと戸和に関しては、この上司の耐性は中学生も良いところだった。
「別に、今直ぐ答えて下さいとは言いませんから」
見兼ねて助け舟を出す。
硬直した手を漸く離し、青年は上着から携帯を取り出した。
「構いませんよ。しっかり考えて貰って」
深く凭れ、私用携帯からメールの返信を始める。
此方を置いて余りにも冷静な彼に、萱島はすっかり呑まれてしまっていた。
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