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episode.2-14
喉が干上がって声が出ない。
情けないなどと。己を責める余裕すら無い。
(そもそも何故俺だよ)
この完全無敵の部下の事だ。
分母の数は多分にある。決まっている。
何が悲しくて、自分で言うのも何だが…こんなヤクザ上がりの、さしたる取り柄もない人間を選ぶというのか。
「…バグってんのかお前」
「はい?」
失礼な台詞を吐く。
反応した相手は怪訝な目で面を上げた。
「俺、こんなんだぞ」
何が良いんだよ、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに。
萱島がひ弱な声を紡ぐ。
「絶対勿体ない、お前ならもっと他に色々…」
「他なんてどうだって良いんですよ」
凛然と言い放つ言葉に裂かれた。
どくりと、心臓が握り締められ跳ねた。
「貴方が手に入ればそれで良い」
さらりと迷いも無く言い切る。
鋭い眼差しに、息が止まる。
「萱島さんは?」
いつも見惚れた黒い双眼が、怪しく光沢を帯びていた。
「どう思いますか」
問いかけられて尚固まる。
正直に言って、ぐちゃぐちゃで到底言葉に出来る代物ではなかった。
「……」
萱島は逃げる様にまたキーボードを叩いた。
僅かなタイムラグの後、戸和の携帯が点滅した。
言いたい事はあったが。新着メールの受信に、青年の意識が手元へ向かう。
そこで挙動が止まった。
メールを寄越したのが、現在隣にいる上司だったのだから。
「何ですかこの顔文字」
「…俺の…率直な今の心情」
戸和は無言で返信を打った。
今度は萱島のPCが音を立てていた。
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