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episode.2-15
「…!」
黙読した頬が真っ赤に熟れる。
こんちくしょう。
そんな涼しい面構えで、よもや会社のメールに何て文面を。
「俺の率直な心情です」
更にしれっと吐いた。
萱島は何かやり返してやろうかと思ったが、これ以上の凶器も勇気も出て来なかった。
「…絶対に嫌だ」
「何?嫌なんですか」
「ばかじゃないの、お前…」
為す術もなく項垂れる。
「萱島さん」
今日何度目か分からない、名前を呼ばれて渋々視線をやる。
「こっち来て下さい」
携帯を机上に置き、戸和が軽く手招いた。
何だか多分に嫌な予感がした。
「…行かない」
「バラしますよ」
「バラ…え、何を?」
「勤務中に男とヤってた事を」
萱島は勢い良く立ち上がった。
こい、こ、こいつ
き、き、きづ。
声も出ず、間抜けに口だけが何度も開閉する。
「普通声と痣の位置で気付きますよ、初め強姦されたんじゃないかと通報しかけましたが」
それは大方合ってる。
呆然としている間に、思いきり腕を引かれた。
「え、あ」
バランスが崩れる。
抵抗する隙も無く、相手の膝上に座らされる。
体勢を理解した途端、萱島は半ばパニックに陥った。
「や…アホ…は、離せ」
「暴れないで下さい、子供じゃないんだから」
「子供じゃないから暴れてんだよ…!」
正論を言ったつもりが無視された。
戸和の腕が伸び、背中に回り、力を込めて上体を抱き寄せられた。
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