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episode.2-16
「…あ、」
静寂の中、息を詰める。
密着する身体が無意識に火照る。
体温、匂い、心音。
相手が恐ろしく近い。
温かい手が背中を撫で、辿り、もっと強く
青年の身へ埋める様に引き寄せられる。
(て、抵抗できない)
理解はしていたが、相手が些少でも力を入れようものなら勝てる術も無い。
以前に、包み込む柔らかい匂いへ身動きが取れない。
止事無く、行き場も分からず
只管に上着を握り締める。
「…そんな辛そうな顔しなくても」
戸和の手が頬を掬い上げた。
「いきなり犯したりしませんから」
「おか…」
犯すとか、お前。
勝手に清廉な人物像を作り上げていたとはいえ、違和感に目眩がした。
「戸和くんは、そんな事を言わない…」
「言いますよ、何ですか…まさか俺がセックスもしない人間だとでも思ってたんですか」
やめろー。
最早意図的としか思えない。
露骨な言葉を選ぶ青年に、萱島は目を覆った。
「もう良いから離せよ、牧帰ってくるだろ…!」
「…ああ」
もうそんな時間かと、態とらしく時計を確認する。
離せと萱島は部下の腕を引っ張った。
先も言った通り、勝てる見込みは無いのだ。
簡単に主導権を取られ、あろう事か首筋へ噛み付かれていた。
「ひ…っぅ!?」
悲鳴の様な、喘ぎの様な音が漏れた。
ただ歯先の痛みを感じたのも束の間。
俄かに毒のように甘い疼きが広がり、萱島は今度こそ思考から五感からすっ飛んでいた。
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