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extra.1-1 「コンビニ店員の恋」

コンビニの夜勤帯の、あの日常を逸脱した体感の長さは一体何なのだろう。 存外にタイトなスケジュールで眠る訳にもいかず、その癖客も少なく。 講義を終えて帰宅して、数時間仮眠の後にバイクを走らせ、いつも同じ顔ぶれに挨拶をする。 眠い。 日付を跨いだ頃の決まり文句。 寧ろそれしか口をついて出て来ない。 相方がフリーターの日は学生はどうたらこうたらと、耳タコでうんざりな話をされ。 朝方になれば店長が現れるのだから、瞼が落ちてこようが気が抜けない。 (俺、このままで良いのかな) もう来年の今頃には就職活動が始まる。 芸大生として学び、それなりの自尊心を燃やし、貴重な日々を費やした絵は。 結局大した評価を浴びる事も無く、遥かに上手い人間が描いた同じ様な構図に埋もれて消えた。 (目が潰れる) 冬の夜勤帯の終盤の、この真っ黄色の朝焼けはいつも死にたくなる。 「もう6時だなー」 呑気な、自分より焦るべきフリーターが言った。 小林は怠そうに面を上げた。 「…今日朝の人居ないんで、俺8時まで残れって」 「らしいなー」 何がらしいな、だよ。 死ね。 俺は学校があるのに、何故代わろうという思いやりが出て来ない。 「2人ともお早う」 今日もセンスに欠ける私服の店長が現れた。 御年50になるおばさん。 決まりきった型で外れる事の無い毎日が、ただただ辛い。 「お早う御座います、天気良いですね」 「ねえ眩しいったら無いわ…じゃあ小林くん、あと2時間だけど少し休憩行ってらっしゃい」 「…はい」 愛想もなく言った。 両目が睡眠不足に落ち窪んでいた。 バックルームに向かい、携帯と財布を捜す。 今日は幸い昼からの講義だった。 俺は、果たしてこんな調子で、来年一体何を目指して泳ぎ出せば良いのか。

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