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extra.1-2
一頻り項垂れ、息を吐いてバックルームを出た。
何だかレジ付近が騒がしい。
朝は大方機嫌が悪い店長の、甚く明るい笑い声が店内に響いた。
(…何だ?OBでも来てんのか?)
凝り固まった首を回し、煙草を求めてレジに向かった。
「あ」
早朝の閑散とした頃合い、レジで談笑していたのは常連だった。
「小林くんだ」
こんな時間からまるで屈託のない笑みを寄越す。
スーツを着た、稀に出会す近くの会社員が居た。
「聞いてよ小林くん、萱島さん私が旦那と歩いてるの見ちゃったんですってえ。もう、恥ずかしいったらないわ!」
「すいませんご挨拶しようかと思ったんですが…あんまりにも仲睦まじいので邪魔するのもどうかと」
「やだあ、そんな事ないのよ全然!今朝も詰まらない喧嘩したんだから、やあねえほんと!」
萱島さんが来ると店長が喜ぶのは知っていた。
否、店長に限らず。隣のフリーターまでもだらしなく顔を緩めていた。
(キラキラした人だなあ)
賞賛を込めて。
目を細め、そんな感想を抱いた。
見目は可愛らしく、表情はくるくると変わる。
年下かと思っていたが聞けばそれなりの役職らしく、店長への物腰も丁寧で、恐らく幾つか上なのだろう。
「煙草?」
話し掛けられてはっとした。
思わず首を縦に振る。
缶コーヒーをレジ台に置き、彼は何か、此方を見て悪戯に笑んだ。
「当ててやるよ」
おや。
子供の様な表情に少し、人見知りの警戒が奪われた。
一寸悩み、彼は「34番」と言い切った。
信じ難い、サイズまで当たっている、言った覚えなんてない。
そもそも俺は余りこの人と、話した経験すらない。
「正解?」
「な、何で知って…」
「俺得意なんだ、人の煙草当てんの」
嬉しそうに口元を上げた表情につい見惚れた。
その間に彼は勝手に会計を、自分の分と済ましてしまった。
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