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extra.1-3
「あげる」
俺の手中にボックス。
奢られた、何と。慌てて礼を述べるべく、店を出る背中を追い掛けた。
彼は店の前に立ち止まり、プルタブを開けて煽った。
その隣に倣って佇みフィルムを外す。
「あの、すいません…ありがとう御座います」
「とんでもない」
笑って続ける。
「小林くんって大学生?」
「そうっすね、まあ芸大なんですけど…」
「…芸大?」
はたと相手が静止した。
誰か知り合いでも居るのだろうか。
首を傾げる手前で、急に飴玉みたいな瞳が輝いた。
「うわほんとに?何、絵描いてんの?」
「あ、まあ…専攻は油絵で」
「嘘だろ、凄いな、写メとかないの」
何も凄くはない。
絵を描けるだけの人間など、星の数ほどいるのだから。
けれど萱島の嬉しそうな反応に押され、小林はつい携帯を取り出していた。
「これが一応、学祭に出した奴です」
大概の人間の反応を知っていた。
へー、なんか凄いね。だ。
上手い訳が無い、そもそも自分が描くのは凡そが抽象画で、良し悪しなど分かるべくも無い。
「…海?」
居心地悪く頷く。
彼は小林の携帯を横に向けたり、上に翳したり、別に何が変わる訳でも無いのに。
彼方此方からじっと眺めていた。
「つまんないでしょ…ぱっとしなくて」
「ううん」
萱島は予想外に、手放しに褒めたりはしなかった。
ただ暫く経って、ぽつりと零す様に言った。
「俺、これ凄い好き」
目を見開く。
盗み見た横顔は、笑みを湛えるでも無く。
至って真剣で、鼻白んだ。
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