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「あげる」 俺の手中にボックス。 奢られた、何と。慌てて礼を述べるべく、店を出る背中を追い掛けた。 彼は店の前に立ち止まり、プルタブを開けて煽った。 その隣に倣って佇みフィルムを外す。 「あの、すいません…ありがとう御座います」 「とんでもない」 笑って続ける。 「小林くんって大学生?」 「そうっすね、まあ芸大なんですけど…」 「…芸大?」 はたと相手が静止した。 誰か知り合いでも居るのだろうか。 首を傾げる手前で、急に飴玉みたいな瞳が輝いた。 「うわほんとに?何、絵描いてんの?」 「あ、まあ…専攻は油絵で」 「嘘だろ、凄いな、写メとかないの」 何も凄くはない。 絵を描けるだけの人間など、星の数ほどいるのだから。 けれど萱島の嬉しそうな反応に押され、小林はつい携帯を取り出していた。 「これが一応、学祭に出した奴です」 大概の人間の反応を知っていた。 へー、なんか凄いね。だ。 上手い訳が無い、そもそも自分が描くのは凡そが抽象画で、良し悪しなど分かるべくも無い。 「…海?」 居心地悪く頷く。 彼は小林の携帯を横に向けたり、上に翳したり、別に何が変わる訳でも無いのに。 彼方此方からじっと眺めていた。 「つまんないでしょ…ぱっとしなくて」 「ううん」 萱島は予想外に、手放しに褒めたりはしなかった。 ただ暫く経って、ぽつりと零す様に言った。 「俺、これ凄い好き」 目を見開く。 盗み見た横顔は、笑みを湛えるでも無く。 至って真剣で、鼻白んだ。

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