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extra.1-6

「千葉くんと海堂か」 「同僚ですね」 「…何の会社ですか?」 目元の涙を拭い、萱島は小林の問いに首を傾けた。 「何の会社だっけ」 「調、査、会社ですよ主任」 牧があろうことか上司の両頬を引っ張った。 萱島は痛いと喚いた後、直ぐにごめんなさいと謝罪した。 立場が、弱い。 「さーて朝飯選んで、会計ジャンケンして帰るか」 「萱島さんがグーしか出せない会計ジャンケンな」 「畜生が…言っとくけどな、ほんとお前ら自宅警備員とホストにしか見えねえんだからな」 さっさと入店する2人に、萱島は悪態をついた。 楽しそうな職場だな。 小林は羨望から、煙草のフィルターを噛んだ。 「小林くん、牧と仲良かったんだ」 「仲良いというか…まあ、同い年ですし、会えば話すというか」 「…そっか」 萱島が目を丸くした。 「そうだよな…いやついさ、アイツら大人びてるから頼り過ぎるというか…適当に任せちゃうけど、未だそんな年なんだよな」 凄いな。未だ味わってもいない煙草を、決まり悪さを紛らわす様に灰皿に押し付けた。 牧は、この人にそんな風に思わせるほど。 頼られるほど凄い奴だった。 唐突に早く働きたいと、新たな欲求が湧き始めていた。 バイトでは無い。 社会人として、1人の大人として、自立して。 そしてもっと堂々とこの人の隣に並べるような。 ああ、このままでは駄目だ。 こんな何も踏み出さず、現状に文句だけを並べているままでは。 「俺、もっと良い絵描くんで」 まるで決まった予定の様にはっきりと青年は言った。 「また見て下さい」 「…勿論」 朝焼けの中で、コーヒー缶を手にした萱島が微笑む。 小林は未だ飽きもせず彼に見惚れていた。 巷で称賛される絵画よりもよっぽど美しい光景を、其処に見付けた気がして。 Fin.

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