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episode.3-3
「威嚇するな」
神崎の声に我に返った。
ぱらり。
静かに紙が捲れる音に、萱島の身体が弛緩する。
「蜂と同じだ。手を出さなければ何も害は無い、規律上やむを得なく居るだけだ」
「貴方に銃口を向けている」
「そう、構えとしてな。それくらい気にしなければ良い」
未だ納得いかないも剣を引っ込めた。
気配で何となく、向こうも息を吐いた気がした。
人なのだ彼らも。
この場で最もその範疇から遠いのは、恐らく。
「…社長は一生結婚出来ないでしょうね」
「何だよ藪から棒に」
一連の流れで此方を見ようともしない。
また神崎は口端だけで笑った。
「寂しい独り身になって、せいぜい過去を悔やめば良いんだ」
「俺は早死にするから結婚はいらん」
聞き捨てならない台詞だ。
萱島の眉が吊り上がった。
だからその煙草か。
神崎の手元から火のついたそれを奪い取り、序でに机上のボックスも掴み上げた。
「…なら俺を拾ったのが間違いだ」
身を離し、萱島は舌打ちしながら席を立つ。
「簡単に死ねると思わないで下さい」
言い捨て、さっさとテラスを後にした。
漸く彼が自分を見た気がしたが、もうどうでも良くなっていた。
もう検査も終わっただろう。
煙草を去り際に灰皿に投げ捨て、ボックスも握り潰す。
因みに萱島自身は煙草など…体面と環境から手を出しただけで、元より好みでもなく止めてしまった。
あんなもの。
砂糖の掛かったメープルパンケーキの方がよっぽど美味しい。
決して身体に良くない点では、どちらも同類だったが。
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