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episode.3-5
駅中の簡素なコンビニですら、店頭にギフト包装のチョコレートが並ぶというのに。
「…そうだ」
休憩所の手前で突如萱島は脚を止めた。
「それだ、何かいまいちテンションが上がらんと思ったら…」
「何すか」
「何故この会社には女性社員が居ないのか」
甚く真剣な様相に部下が首を傾げた。
なんっとまあ、今更な疑問を。
「考えてもみろ、お前ら滅茶苦茶損してるんだぞ。雇用機会均等法が施行された今、普通なら俺の隣に香◯ゆいが居ても可笑しくない…」
「香◯ゆいが居たらアンタ仕事しないでしょ」
「しないけど」
「それは別に社長が差別してる訳じゃなくて、昔は勿論居たんですけどね。まあでもやっぱ比率が少なくて、そうなると何つーかこう…向こうからしたら少し」
「やり辛い?」
「いや、うちって見目だけはマシなのが多いから、優しくされるとのぼせちゃうというか。勘違いする子がいっぱい居て」
萱島は即座に納得した。
これだけ若い人間しか居なければ、そりゃ色恋に落ちて拗れる事もあるだろう。
「みんなお姫様気取りになっちゃうんですよね、少し露出でもしようなら注目してくれるし。実際に片っ端から手出して、揉めに揉めた事もあったし」
「うわー…」
「一番問題だったのはどうしても契約の関係で、初日に副社長が付きっきりになってた事だけどな」
「ああ、アレはもう論外だろ。あの人ほんとやらかすからな、優しさという名の大罪を」
光景が目に浮かぶ。
右も左も分からぬ不安の中、彼に大丈夫かと覗きこまれようものなら。
そもそも性別関係無く真っ逆さまに思える。
「で、裏試験が施行されて採用自体無くなったっていう」
「裏試験?」
「個人的に食事したいからって連絡先聞かれて、教えたら直後に不採用メール来るだけ」
「そんなもん本郷さんが聞いたら全滅じゃねーか」
「そうですよ、要するにウチに女性が居ないのは副社長の所為ですよ」
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