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episode.3-7
「わったっしと、君だけのー…」
何の気なしにシーズンメモリーのOPを口遊む。
「恋…」
ぴたりと萱島の動きが止まった。
はたと其処で、隣の青年を見やった。
「あ、戸和チョコくれよ」
「…はあ?」
恐い。
親の仇の様な目をしている。
「舐めてんですか」
「…舐めてません、殺さないで下さい」
「人の告白を流して置いて、良くもそんな事が言えましたね」
呆れて彼は怒気を引っ込めた。
思わず冷や汗が伝う。
そうなのだ、結局自分は男気も無く答えが出せずにいるのだ。
人生も既に約四半世紀。
それなりに経験を積んできたものの、時に烏頭白くして馬角を生ず事がある。
(そうは言われましても…)
萱島は悄然と肩を竦めた。
私生活で関係を結んだとして、此処で今まで同様に振る舞える自信が毛頭ない。
寧ろ、お仕事にならんレベルかもしれない。
「そんなに欲しいなら、仕事終わりに俺の家に寄って貰えばあげますよ」
「…え」
目を輝かせて面を上げた。
一気にテンションの回復した相手に、戸和が冷めた視線を寄越した。
「ほ、ほんとに?…ほんとにくれんの?行きます、絶対行きます」
「萱島さん、分かってて言ってるんですか?」
殊更呆れる部下に、萱島は言葉を詰まらせる。
「分か…何が?あ、場所は…分かんないです、けど」
溜息をつかれた。
菓子ひとつで釣られた大人は、危機感のきの字もなく目を瞬いた。
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